きっと秋の夜長の一コマふと、作業をしていた手を止めて時計を見る。
時刻は午前0時になる少し前だった。
傍らには、泊まりに来ていた彼が「夜更かしをせず早く寝ろよ」と、お小言付きで入れてくれたホットミルクが、すっかり冷めてしまった状態でカップに少しばかり残っていた。
それを飲み干しながら、部屋が静かな事に気が付き辺りを見回す。
お目当ての人物は壁際に敷かれた布団に座り、読みかけの本を胸元に抱えてすやすやと眠っていた。
司が類の家へ遊びに来るようになって気づいたことだが、二人きりの時の彼は存外静かなのである。
映画を観た後やショーの構成を練る時などは、大きな瞳をキラキラと輝かせ類と意見交換を行う。しかし、類が作業にはいると、休憩の為のお茶など用意してくれる以外は決まって彼は静かに読書をして作業が終わるのを待っている。
読む本は、ある時は恋愛小説を、またある時は台本を読み返していたりと、特に決まったジャンルはない。
さて、今日はどんな本を読んでいたのだろうと抱え込まれた本の表紙を見て、「ふふっ」と小さく笑みがこぼれた。
司が読んでいたのは、類の本棚にあった機械工学の本だった。きっと、読んでいるうちに内容が難しく眠くなってしまったのだろうと予想がつく。それと同時に、なんだか自分を理解してくれようとしているようなそんな気がして、幸せに胸がいっぱいになった。
司から本を取り、栞を挟んで近くのテーブルに置く。壁に凭れていた体を布団へ横にさせ、毛布をかけて自分もその隣へ潜り込み電気を消す。
「明日、本の感想を聞いてみようかな。」と呟き、目を閉じる。
きっと明日もいい日になるなと、隣の温もりを感じながら心地よい睡魔に身を委ねていった。