指切り指切り
指切りってなんだ?とユリウスは言う。
まぁ一種のお呪いみたいなもんだと思ってくれよと蒼真は言う。
渋々指切りしてこんなのでいいのか?とユリウスが聞くと、日本ではよくやる事なんだと蒼真が言う。
忘れないでくれと蒼真は言う。交わした約束を、忘れないでくれと言う。
あぁ分かっているとユリウスは言う。忘れも違えもしないとユリウスは言う。
その言葉を聞いて蒼真は笑う。頼もしいなと蒼真は言った。
じゃあオレもお前と指切りをしようとユリウスは言う。
何も約束する事なんてないのに?と蒼真は言う。
蒼真が魔王になんかならないと約束だとユリウスは言う。
そんなの保証できないのに?と蒼真は言う。
ただの約束も大切にしておけば現実になるかもしれないぞ?とユリウスは言う。
ロマンチストだっけ?と蒼真は言う。
お前に言われたくないとユリウスは言う。
もう一度、二人で指切りをした。
肉片になったドラキュラだったものを見る。蒼真は約束を破ったのだ。針千本、あの日交わした指切りはそんな事を言っては飲ますなどと恐ろしいと思う内容だったのに、今となっては斧が周りに散らばっている。ぐちゃぐちゃになった巨躯は暫くしたのち霧散した。
「ユリウス、大丈夫…?」
心配したヨーコが声をかける。大丈夫だ、と返すユリウスだが顔はそうは言っていなかった。今し方見知った相手を倒したのだ。通常の退治と違い言いようのない感情が胸を締め付ける。
城が崩れ始め悠長にしていられない、と三人は後ろ髪引かれる想いだったが急いで脱出した。
ユリウスと交わした蒼真の約束は果たした。しかし蒼真と交わしたユリウスとの約束は蒼真が魔王となった時点で破綻した。
「嘘を、つくんじゃない…」
もう居ない相手に悪態をつく。もう、居ないのだ。
「大馬鹿者め…」
脱出の最中、ユリウスは蒼真をなじった。もう居ないと言うのに。居ないからこそなのだろうか。
約束とはなんだったのだろう。今となっては意味の無い戯言だとユリウスは頭を振って考える事をやめた。
――なぁ、もう一つ約束していいか?
不意に思い出された言葉にハッとすると周りの時間が止まった様にゆっくりと進んでいる。振り返ると蒼真が笑っていた。
「蒼………」
「ユリウス!?」
走る足を止め蒼真の方へと向き直るとその幻影は落ちた岩に潰された。間一髪でアルカードに腕を引かれユリウスは助かった。
「す、すまん…」
「そんな事はいい、早く脱出するぞ!」
崩壊が早まる。時間は残り少ない様だ。無駄な事を考えずに急いで脱出した。
後数分遅れたら見事に生き埋めになるところだったが、教団跡地を見て全て終わったのだと理解する。
早く戻ろう、ヨーコもアルカードもこの場所から離れたいのかそそくさと立ち去る。ユリウスはもう少しいると二人を先に行かせた。
――なぁ、もう一つ約束していいか?
「あぁ、守るさ」
あの日交わしたもう一つの約束。それを誓うかの様に、いつかの指切りのように空に指を伸ばした。
――オレが死んでも、アンタたちは生きろよ