【ノギたん】少しの重さと生暖かさを感じて目を覚ました俺は、目の前の現状を理解するのに数秒掛かった。俺は一人掛けのソファで座りながらねこけていたようだった。傍らに片付けられた酒盛りの跡。所長と鷹野と富竹がこの場に居たはずだと記憶を辿る……でもなく。
目の前の酒盛りをしていたテーブルの上にはポラロイドカメラと共に数枚のインスタント写真が散らけていた。そのテーブルを挟んで向こう側。長ソファの腕置きにクッションをかませて枕代わりにし、こちらに顔を向けた状態で横になってスゥスゥと小気味良い寝息を立てて熟睡しているのが鷹野。その鷹野の眠る長ソファと平行に床に転がっているのが富竹。
そして所長は……入江は、俺の肩に腕を乗せて寄り掛かってやがった。重かった理由はこれか。狭いのも、入江が半分ほどを占有しているからだった。
何も無かったかのように、俺がキッチリ仕事用を着ている事に、少し疑問を持つ。ネクタイくらいは緩んでいてもおかしくなかったはずだと。
……写真か。
所長を起こさないように、肩に掛けられていた腕を除ける。グラサンがズレているのはそのままにしといてやる。
テーブルの端に集めて写真を確認する。問題は無さそうだな。本来の業務により写真自体を撮られる事が少ないながらも、こうやって遺す事を教えられたんは、富竹だった。自分と富竹と入江と鷹野と……誰が呼んだか雲雀十三と野村もそこに居た。へへへ、ははは。『東京』での写真も混じっていたようだ。
そのうちの一枚、普段は掛けないグラサンの所長に肩を抱かれた俺がそこに写されていた。特段おかしなところは何もない、はずだ。
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「小此木の誕生日を控えているの。あまり盛大には出来ないけれど、思い出話でもしようかしら」
「野村よ……私に声が掛かるとはね。協力? ご勝手にどうぞ。」
「僕も、小此木君には色々感謝しているからね。」
「隊長の誕生日、盛大に祝おうぜ!」
「私もお手伝いしますよ。豪勢には出来ませんが奮発しますので。」
鹿骨市と『東京』とを繋いでいた野村は、雛見沢の人間との関係はとうに切れているはずだったが、何の因果か今もまた『東京』と他の組織に取り入って居るようだった。
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いつものように造園会社のシャッターを上げていると、社屋内から電話の音が鳴っていた。
トゥルルル。トゥルルル。トゥ……何回目かのコール音で、いささか乱雑に受話器をぶんどる。
「ご無沙汰しています、野村です。X月X日『東京』でお待ちしています」
オイオイ。有無を言わせず切れちまったが野村か。かつてのクライアント主からの電話で身構えちまったな。何の用だか知らんが『東京』に行ってやるか。
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富竹と鷹野と入江と俺の四人の、始まりの場所。全てはここからだったのを思い出す。そして。
誕生日、おめでとうございます!!!