偶然を装う「七海さん、お疲れ様です」
丁度帰ろうとしていたところで、出先から戻ってきた伊地知くんと会った。
「お帰りですか?」
「ええ。君は?」
「これから書類作業を1時間ほどして退勤します…では、お気をつけて」
足早で学内に入って行く彼の背を見届けてから私も高専に背を向けた。
「伊地知くん?」
自販機の前で佇んでいる彼に声をかけると、驚きながらこちらを見る。
「な、七海さん、お疲れ様です」
心なしか少し顔が赤い気がするのは気候が暖かくなったからだろうか。
「どうしたんですか、自販機の前で」
「大したことでは……新商品が増えていたのでなんだろうかと思って、見ていました」
そう言われて自販機を見ると確かに新商品が増えていた。
「無糖のストレートティーですか」
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