人の形をしたあの子もはや誰もいない、どこかさえ記されていない、街だった場所。
薄暗い深夜、『彼女』は動き出した。
動かせる関節は鈍い音を立て、酷くぎこちない。
彼女は割れた鏡を覗き込んで、絶望した。
人形らしい青白い肌はもうない。
人形らしい美しい服はもう布切れに。
人形らしい、『顔』はもう形を失っていた。
彼女は絶望していたが、泣いても顔がないから涙をこぼす事もできない。
動かしにくい体をゆっくりと動かして、彼女は半壊した家から外へ出た。
遠くの方に月より明るい街が見えた。
彼女が知っている世界の面影もなく、見たことない景色ばかり。
それでも彼女は迷いなく歩き出した。
この世界で生きられる(愛される)方法を探しに。