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    hipp1len

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    萬屋としての腕は信頼してるし、何かあっても自力でどうにかできる力があるのも知ってるので、危険な可能性のある依頼をしないみたいな気の遣い方はしないけど、心配しないわけでもない、それはそれ、これはこれ、な銃兎の銃一

    #銃一
    cannonI

    取り調べは終わらない「確かに。いつもながら見事な仕事ぶりですね」
    「当然だろ」
     ヨコハマ内のとある路地裏。ちらりとそちらを覗くものがあっても、決して近寄ろうなどという気は起きないだろう長身の男が二人。傍目には闇取引でもしていそうな雰囲気で佇んでいた。
     暗がりゆえ調査報告書の必要な箇所にだけさらりと目を通した銃兎は、その間手持ち無沙汰にしていた一郎の顔をジッと見つめる。
    「なんだよ」
    「いえ、フードを被っているなと思って」
    「…今更何言ってんだ? こういう時はだいたいそうだろ」
     怪訝そうな顔をする一郎の表情も、フードを被っていては些か見づらい。
     更には、敢えてそういう場所を選んでいるために光のあまり届かない路地裏だ。
     こういう時。主に銃兎が依頼した仕事の報告の際に、一郎がフードを被っているのにはいくつかの理由がある。
     銃兎もそれを理解しているため、殊更その件に触れることはない。
     だからこそ、一郎が訝しむのも仕方がなかった。
     ただ、隠れるためならばまだいいが、隠すためはいただけない。
    「まだお時間が大丈夫でしたら、このあと家に来ませんか?」
    「……はっ!?」
     銃兎はこれ以上一郎に不審に思われぬよう、話題を変えた。
     こういう類の誘いに未だ慣れない一郎は銃兎の思惑通り、あからさまなそれにさえ表情を一変させる。
    「顔、赤くなってますよ。何を想像したんです?」
    「……なってねぇし…見えてねぇだろ」
    「なら、もっと近くで見せてください」
     それまでの仕事モードからは完全に抜け出して、恋人としての空気を纏う銃兎の手が一郎の頬に伸びる。
     例え見えていなくても、その頬の熱さで一郎の顔が赤いことなど明白だ。
     逡巡したのち、一郎の色違いの双眸がそっと伏せられて、銃兎はこっそり笑いをこぼして引き結ばれた唇に己のそれを重ねた。
    「ん…ぅ…、んン……はっ…ぁ……」
     ゆるゆると唇を開いた一郎の誘いにのって侵入した銃兎の舌が、口内を優しく愛撫する。
     角度を変えて続けられるキスに、一郎の頭がぼんやりしかかっていた頃。見計らったように銃兎が顔を引く。
    「これくらいのキスでそんな顔をして、本当に快楽に弱いですね」
    「っ、あんたがいちいちエロいから…くそっ、……たのに」
    「え? 何ですか?」
     指摘されてカッとなった一郎は、再び揶揄われることのないように、顔の下半分を大きな手の下に隠した。
     覆われた口元でもごもごと溢した言葉は当然銃兎には届かず、悪口でも言われたのかと予想を立てた銃兎は受けて立つつもりで聞き返す。
    「…先に言ってくれてりゃ、準備、してきたのに」
    「……」
     あてが外れ、それはもう見事に変化球を食らった形になった銃兎は、思わず止まってしまいそうになった思考を慌てて繋ぎ合わせる。
     顔を見られたくなくて下を向いていた一郎には、一瞬ながら目を丸くした銃兎の姿は見えていなかった。
     銃兎が密かに疑っていることが実際にそうであったなら、このような物言いはしないだろう。しかしながら、目の前の男が油断ならない相手であることを理解している銃兎は、簡単に手を緩めることはしない。
    「丁度良かったですね。私はこれから今受け取ったこちらの処理をしないといけないので、まだ帰れないんですよ」
    「なっ、なら最初から言うんじゃ、」
    「ストップストップ。話は最後まで聞いてください」
     また揶揄われたのかと瞬発的に反応した一郎を宥めるように、銃兎は自身のスーツのポケットを探っていた手を一郎の前に差し出す。
    「なので、先に家で待っていてくれませんか?」
     チャラリ。互いの間に揺れるのは、一郎にとっても見覚えのあるものだ。
     銃兎の家の合鍵。銃兎は持っていていいと言っているのだが、警官の家の合鍵をそうホイホイ渡すなと、一郎は頑として受け取らない。
     用事があって必要な時は受け取るが、家を出る際には毎回律儀に銃兎に返している。
     理由が職業である限り、この問題をどうにかするのは時間がかかるだろうと、銃兎は長期戦の構えだ。
     ここまで翻弄されっぱなしでこれ以上思い通りになってやるかと些細な反抗心で鍵を睨み付けた一郎は、しかしただの時間の無駄であると悟り、大人しく鍵を受け取る。
     その段階になって漸く、銃兎の中で一郎への疑いが八割方払拭される。
     にこりと笑む銃兎に含みを感じて、一郎はまた揶揄われる前にと踵を返す。
    「あんまり遅いと先に寝ちまうからな!」
     そのまま立ち去ろうとして、一郎は最後にくるりと顔だけを銃兎に向けて言い放つ。
     銃兎がどんな顔をしているか確認する前に、静かな路地裏から賑やかなヨコハマの街へと足を踏み出した。
     取り残された銃兎は、先ほどとはまた違う笑みを浮かべていた。
     そんなことを言いながら、健気に起きて待っていてくれるであろう恋人のことを思いながら。



     それほど業務が長引くこともなく帰宅した銃兎を、一郎が出迎える。
    「おかえり」
    「ただいま帰りました」
     一郎は、銃兎の家で過ごす用にと買い置いているスウェット姿で、風呂に入って準備万端であることを誤魔化すように、ぶっきらぼうに言った。
     すべてお見通しで温かな眼差しを向ける銃兎にむず痒くなった一郎は、先ほどの意趣返しのつもりで口を開く。
    「思ったより早かったな。俺に会いたくて急いで終わらせてきたのか?」
    「そうですよ」
     言っている途中で恥ずかしくなってきた一郎に対して、魂胆など見え見えであるそれに、銃兎は涼しい顔ですんなりと肯定を返してみせる。
     面白くないと顔に出ているのを自覚しながら、それ以上は何も言わず、一郎はキッチンに向かう。
     テーブルの上には、一郎が風呂に入る前に用意した軽食が、ラップをかけた状態で並べられている。
     銃兎は密かに期待していた一郎の手料理に、内心浮かれていることを表に出さないようにしながら洗面所に向かう。
    「軽い飯作っといたが、どのみち食べる前に温めないといけねぇから……」
    「はい…?」
     手洗いうがいを終えて戻った銃兎は、いつもなら「食べるよな?」と返事を聞く前に温め始める一郎が動こうとしないことに、ネクタイを緩めていた手を止める。
    「その、先に……」
     見れば、顔を真っ赤にした一郎が、口をはくはくさせて銃兎を誘っている。
     そこから先を言葉に出来ない情けなさと葛藤している一郎の元に、銃兎が近付く。
     何を言われるのか。身構える一郎にくすりと笑いを漏らした銃兎が、諭すように口を開く。
    「そこは、定番のセリフがあるでしょう?」
    「……?」
    「お風呂にする?それとも…というやつですよ」
     首を傾げる一郎の耳元にそっと顔を近づけて、銃兎が意味深に囁く。
     色気を伴った声音で鼓膜を擽られて、一郎はびくりと肩を震わせた。
    「そんなこと、言えるわけねぇだろ!」
    「言ってるも同然の誘い文句でしたけどね」
     銃兎の指摘に、一郎は自分が言った言葉を思い返して、更に顔を赤くする。
     これでは余計に言えたものではないと固まる一郎を、銃兎はやれやれと見やって、顎に手を添え、腰を引き寄せる。
    「勿論、貴方で」
    「~~っ! 言ってねぇだろ!!!」
     言葉にする前に返事をされ、一郎は為す術もなくなってしまう。
     おまけに反論の言葉をも奪うように、銃兎の唇が一郎のそれに重なる。
     何を言えたわけでもない。結局言わないまま一郎の望み通りになっている現状に銃兎の甘さが垣間見えて、己の不甲斐無さを実感する。
     恋人を甘やかすことは吝かでない銃兎ではあるが、今回はただいじらしい恋人の姿に欲を刺激されたことに加え、打算があって動いたまでだ。
     状況が違えば、次の機会には、きちんと言葉に出来るまで手は出さないでおこうと銃兎が目論んでいることなど、一郎が知る由もない。
    「ん、ン……じゅ、とさ…も……」
    「ふっ…そうですね…場所を移しましょうか」
     一郎の口元を指で掬って、そのままぺろりとそれを舐める銃兎に、一郎の瞳の奥で揺れていた欲情の熱が強くなる。
    「……取り越し苦労だったか」
    「? なに…?」
    「恋人が可愛すぎると苦労するという話ですよ」
    「……? 誰の話してんだ?」
     いきなりなんだ、とまるで合点がいっていない一郎に銃兎はこっそり苦笑を漏らす。
    「いえ、こちらの話です」
    「なんだよ、……いこうぜ」
    「いつかは、貴方の口から言ってもらえるようになると有難いんですがね」
    「……ん、」
     またもぶっきらぼうにベッドへ促すことしか出来なかった一郎は、帰ったら特訓すっか、と心の中で誘い文句の勉強をする決心をした。
     寝室に向かう一郎の後ろ姿におかしな点がないか、銃兎はよく観察する。
     今回の依頼、一郎には知らせていなかったが、銃兎は別の用途でもう一人使いを出していた。
     先にそちらからの報告を受け取った際に、ちょっとしたハプニングがあったことを耳にしたのだが、案の定、一郎の報告書にその件に関する記載はなかった。
     一郎の性格からして真っ先に浮かぶのは、その際に怪我をしたなど銃兎に隠さなければならない事案が発生した可能性だ。
     報告中の一郎の挙動に不審な点はなく、こうして裸を見られる行為を拒むこともない。寧ろ乗り気だとくれば、銃兎の考えは杞憂だったということになる。
     たまたまその時その場に居合わせなかっただけだろうか。
    「次は身体にきくとしましょうかね」
     完全には納得しきれていないそれに、銃兎は一人残ったリビングでこっそり溢す。
     銃兎の心の内など知らず、寝室のドアからひょこりと顔を覗かせる恋人の姿に笑いそうになりながら、機嫌を損ねる前にとそちらに向かうのだった。

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