秋の一コマ「あっ……」
買い物袋を片手にのんびりと家路を辿る休日。少し前をフラフラと歩いていたレオが突然に声を上げて立ち止まった。
「ちょっとレオさん!」
「……スオ〜、見て見て!」
肩にトンとぶつかったレオを司は咎めようとしたが、レオの片手がスルリと司の腰元に絡まって、目の前にスマートフォンを掲げられた。言われるがままに画面を覗き込むと『ピロン♪』と間抜けな音が鳴り響く。
画面には満面の笑みのレオと真面目な顔をした司。そして背後には2人を彩る様な暖かな色。
「わぁ……」
「わはは!スオ〜真顔!凄いな〜いつの間にかおれ達の季節になってるんだな〜」
司が振り返ると、並木道は深まった秋を魅せつけるように鮮やかに色付いていた。
毎日通る道なのに、多忙を極めるとこんなにも尊い変化に気付かない。意識の外側でいつだって世界は回っているのに。
「不思議ですね、こんなにも美しいのに……言われなければ気付かないまま通り過ぎてしまって居たかもしれません……て、おれ達の季節とは?」
「そうなんだよな〜昔はもっと色んなことに気付けてた気がするのにな〜……」
レオはトントンと先程撮影した写真を指差して背景に溶け込む2人の髪色を示すと司は成程と頷いた。
確かに司もレオも秋色の髪をしている。
「ふふ……しかしレオさんこんな不意打ちの写真はイヤです……どうせなら私だって笑顔で映りたい」
「あ、じゃぁもう一枚〜スオ〜笑って!」
今度は腕を組んで、頬を思い切り寄せレオはスマートフォンを掲げ直す。特別な何かがあった訳でもないのに何だか嬉しそうな2人分の笑顔を収めた1枚が音を立てた。
「待受にしよ〜」
「はぁ、それは良いのですが寄りかかり過ぎでは?」
「ん〜?」
レオの体重が徐々に司の肩を圧迫していて、まだ帰路の途中ということもあり歩き難い。
レオは画像を保存すると司に寄り掛かりながら組んでいた腕に更に力を込めた。
「いいじゃん少しくらい!てか、スオ〜なんかおっきくなった?こう……ずしーんと!ずどーんと!」
「何ですかそれ……およそIdolらしからぬ効果音をつけないでください」
「いや、頼りがいってゆうか……安心して寄り掛かれるっていうか?成長したなぁ……大きくなって」
「そんな親戚みたいな目で見られても……成長を認めていただけるのは嬉しいですけどね、相変わらず子供扱いが過ぎると言いますか……」
半ばレオを引き摺るようにして歩き出した司は呆れ顔を浮かべるもレオは未だに楽しそうに笑っている。
「そんなつもりないんだけどな〜?よし、じゃぁ……」
パッと離れたレオは司の手から荷物を引ったくると司の鼻頭に指先をちょんと当てて挑戦的な視線を向けた。
「早く帰っておまえが子供じゃないってことを証明してみせろ」
「はい?」
「てことで競争〜っ!」
言いたいことだけを言って走り出したレオに司はぽかんと口を広げ一拍の間が空いた。
柔らかな陽射しのような秋色が逃げていく。気付かなければ通り過ぎていってしまう様な季節。
わけも分からず慌てて司もレオを追って走り出した。意味なんて走りながらでも考えられる。けれど、見逃したらその瞬間は消えてしまうと知っているからいつだって必死だ。
「もうっ!」
パタパタとしっとりとした季節を台無しにするような音を立てて、一体どんな顔で大人の証明をしてやろうかといつの間にか司も楽しそうに笑っていた。