その日は久し振りに揃ってのオフだった。
司とレオは駅前の広場で待ち合わせて日帰り旅行を計画していた。
約束の5分前に先に姿を現した司は腕時計を確認しスマートフォンを取り出して画面を覗き込む。
暗い画面に一瞬映った己の締まりの無い顔に気付き息を吸い込んで表情を整える。オフであろうと外出している以上、いつどこで誰に見られても平気なようにと。
(あぁ、ですが楽しみな気持ちが溢れてしまって……)
日帰りとはいえレオと旅行に出掛けるという特別感にどうしても緩んできてしまう。ウキウキとした空気が身体から放たれて全身で歌ってるようにさえ見えるだろう。それ位この日を楽しみにしていたのだ。
ソワソワと待つ事5分。時間丁度に珍しくレオが司の前に現れた。1時間位待たされる事も想定していたために嬉しい誤算だ。
しかし、黒いキャップ帽を目深に被って俯いたままのレオに司は首を傾がせる。
いつもならば、無駄に笑顔を振り撒いて大袈裟に手を振りながら駆け寄って来るというのに、目の前のレオはじっとりと湿ったような空気を放っている。
「あの、レオさん?どうかしたんですか?」
「スオ〜ごめん……今日の予定はキャンセルだ……」
「はい?」
「他に好きな人が出来たかもしれんっ!」
「は……?」
バッと顔を上げたレオの目は赤く涙が滲んでいる。
突然の告白に司の頭はついて行けずに居る。
(他に好きな人が出来た……?)
昨日も今日の旅行が楽しみだと話していたというのに。こんな話到底受け入れられる訳がない。まさにブラックアウト。目の前が真っ暗になって、恐らく一時的に己の身を守る為だろう、司の思考と感情の全てが停止してしまった。
本当に何も考えられない。