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    香坂が死んだ時まだミコトはUDIにいなかったなぁと気付いて書き途中のままのものです。

    許されるように生きるはなし その日急に飛び込みでやって来た遺体。まだ若そうな青年で職業は警察だと言う。執刀医は三澄ミコトだ。つまり、俺は今回その司法解剖には立ち会わない。昼も過ぎた頃で昼飯を持ってフロアを歩いていれば執刀室の前にしゃがみ込んだ男と一瞬だが目が合う。
    「あんた、警察か?なら」
     入れば良い。と言いかけたところで男は少し汗をかいた額を掌で撫でる。もううんざりだと言うように。そして「いや、自分は大丈夫です」と一言振り絞るように付け足した。
     ならそこに居ると邪魔だからと言葉を選ぶこともなく伝えると顔色の悪いその男は全身黒いスーツの首元を緩めて小さく「すみません」といった。この様子を見れば何が訳ありだろう。まるでお前が死んだみたいに顔が青く冷や汗をかく男を通り過ぎてラボに戻るとどうにも落ち着かず「クソが」と独りごちて男が静かにしゃがみ込んだ場所に戻る。カップ麺が出来上がるまでの時間。そう自分に言い聞かせた。
     すれ違う何人かの中で「香坂と志摩は言い合いをしていた、凄い剣幕でだぞ。あれはただ事じゃなかった。それでこれだ、解らないだろ。カッとなってやったなんて俺たちの仕事じゃ腐る程聞く言い訳だ。あいつが相棒を殺した可能性はいくらでもある。」と苦虫を噛み潰したような顔をしながらどこか面白がる頭のハゲ上がった長身の男が話すのを聞いた。「香坂」それは今三澄が執刀する遺体の名前だ、送られて来た書類を見て「男」だと言う理由で俺が受けなかった依頼。三澄が選ばないでくださいよ。と嫌そうな顔をしてデカいおにぎりを頬張っていたのを思い出す。
    「おい」
    「あ・・・」
     足早に戻った場所の少し離れた椅子に変わらず顔色の悪いその男がうなだれた様子で座っている。こんな状態で後何時間かかるかわからない解剖の結果を待っているようだった。言われた通り執刀室の前から少しズレたところに座っているあたり「香坂」の関係者だろう。しかし執刀室には入らない。入れないのか。だとしたらきっとこいつは。
    「「香坂」の関係者か?」
    「・・・はい」
     男はゆっくりと胸ポケットに入った腕章と警察手帳を開いて見せた。捜査一課、志摩一未。そう書かれた手帳は手際よく再度ポケットにしまわれる。警察官は2人1組で行動をするというのは芝浦署の刑事を見てても解る通り推測するにこの志摩という男は香坂の相棒か何がだろう。
     あの長身の頭のハゲ上がった明らかに嫌味っぽい刑事の話を思い出す。
    「お前が殺したのか」
     自分でもそれは直球すぎたのではないかと後ろめたくなったが口をついて出たのはこの志摩という男が香坂を殺したとは到底思えないような様相でここに座っているからだ。
    「・・・俺が、殺したようなものかも」
     志摩は自傷気味にそう呟くと耐えるように口を結び直し、また膝に上半身を預けるように前屈になりため息をつく。そうだ、息もままならない。俺には覚えがあるのだ大切な人の無条理な死をこの身で、肌で空気で感じたあの時と同じ。
    「そう言う奴はやってない。周りが何と言おうと放っておけ。」 
     慰めるつもりはない。だが自然とそう言った風に男に視線をやれば志摩はゆっくりとこちらに視線だけを向ける。その瞳にはまるで「わかったようなことを言うな」と言われている気がした。これ以上は何も言うべきではないだろう。持って歩いていたすっかり常温に戻ったペットボトルのコーヒーを志摩に差し出せば一瞬戸惑いながらも受け取り律儀に「ありがとうございます」と頭を下げる。
     腕時計を見ればもう10分、お湯を入れたカップ麺は伸びきっているだろう。クソ、そう呟いてその場を後にした。
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     
     執刀室の前で長身の男に声をかけられる。「UDI」のロゴの入ったつなぎを着た男は俺にそこに居ると邪魔だと言う。目つきの悪いその男の名前は知る術もないが俺に負けず劣らずの目つきの悪さだったことは覚えていた。
     さっさと行ってしまう男の背をうなだれた頭をそのままに見送るって倦怠感ばかりの身体を引きずるように執刀室の扉から離れた場所の椅子に腰かける。
    「香坂が死んだ。」原因は不明だ、それを今調べている。でもきっとこの原因が究明されたところで俺のこの倦怠感は解消はされないのはわかっていた。「俺が殺したようなもんだ」と心からそう思った。なぜ香坂のメールを無視したのか、一言でも声をかけてやっていたら何か変わったかもしれない。香坂の相棒が俺なんかじゃなければもし違う人間なら、そう今更考えたところで死人は蘇ったりしない。
     バタンと音を立てて執刀室から出てくる刈谷は俺を見るなり舌打ちをしてその場から去ってしまう。嫌味なあの男の視線を躱す余裕もなく視線から目を逸らした。さっさとどっかいけよと今そんな気分じゃないんだと思いながら。静かな廊下の床材と刈谷の靴底のゴムが擦れて鳴る音にすら俺は嫌気がさした。
     はぁ、と大きく息を吸い込んでもどこか息苦しい。もう何もかもどうでも良いじゃないか。正しさを解いた俺が香坂を追い詰めたなら俺にはもう何も残りやしないんだから。
    「おい」
    「あ・・・」
     先程俺を通りすぎた目つきの悪い男はペットボトルのコーヒーを片手に戻ってくる。うなだれた頭は重くもうこれっぽっちも持ち上がらない。
    「「香坂」の関係者か?」
    「・・・はい」
     俺はめんどくさいと思いながらも胸ポケットにしまった手帳を広げる。
     男は納得したように俺の座る椅子の対面の壁に背を預ける。ああ。めんどくさい。
    「お前が殺したのか」
     なんとも直球な質問に一瞬呆気にとられる。こんな奴は相手にすべきじゃないのかもしれないが、しかしどうにも黙ってもいられずそして自分に言い聞かせるように
    「・・・俺が、殺したようなものかも」
     と振り絞る。これ以上言えば何か余計なことも喚きそうだと俺は口をぐっと結ぶ。くるくると手首を回してペットボトルが男の手の中で回る様に目が回るような気がした。
    「そう言う奴はやってない。周りが何と言おうと放っておけ。」
     その一言に俺はついに吐きそうだった。慰めはいらない。罰が欲しかったから。いっそあの腹立たしい声と表情で詰るような刈谷の方がマシかもしれない。これがどんな死でも香坂を追い詰めていたのは自分だ。あんな真似をさせたのは誰でもないこの俺だから。
     俺はキッと瞑りそうになる目蓋に力を入れ男を横目で見る。睨んでるように思われたかもしれないでもそれでよかった。どっか行ってくれよ。
     そんな意図を察してか男はため息をつきながらも腕時計を眺める。生温そうなペットボトルのコーヒーを俺に徐に俺に差し出す、元来た道に向き直した彼はクソと小さい声を漏らす。
     
     結果を示す書類のコピーを受け取る。その場で確認すべきか迷ったがやたらとその茶封筒が重く感じた俺はその場で確認することなく署まで戻る。
     捜査一課に戻ればみんなが俺に触れ辛そうにしているのが分かり背筋を這い上がる吐き気が限界に達した。茶封筒が重いのか貰ったコーヒーが重いのかすらもう分からない。
     トイレに駆け込んで息を整える。朝から何も食べていない胃は必死に何かを吐き出そうとするが何も食べていない腹から出るものもない。嘔気だけが続く中カバンの中に入った書類を手に取る。「検体者記録」「検体番号642」「香坂義孝」この情報の何もかもが俺を追い詰めているように感じた。昨日まで話をしたあいつが今やこんな紙っぺら一枚になって俺の手に戻ってきたのだから。住居の非常階段下へ足を滑らせての頭部打撲。事故死。
    「自殺じゃない?」
     一瞬でもほっとした自分への罪悪感で俺はついに何も無い腹から胃液を吐き出す。便器に頭を突っ込んで口の中は一気に苦々しく俺を追い上げた。荒げた息を整えながらそのまま床に座り込む。最低だとそう思った。
    「何ほっとしてんだよ」
     これが事故死だから俺のせいじゃないなんて心の澄みで少しでも思っている自分が憎かった。口の中が気持ち悪くてもう一度便器の中に唾を吐く。生温いコーヒーの蓋を開けて飲む。水ならよかったけどもうなんだって良い。口の中の苦味をコーヒーの苦味でごまかした俺は何もかもにイラついて座り込んだ正面のトイレの薄壁を蹴り上げる。想像よりも大きな音が響いて壁は傷ついた。
     ゆっくりと重い身体を引き上げてトイレの個室を出ればスーツをしゃんと整えた。書類を雑に握り込んで扉を乱暴に開ける。まるで何もなかったかのようには振る舞えないがこのままここにいつまでもいるわけにも行かず俺は自分のデスクまで戻る。冷ややかな視線を受けても今度は耐えられた。シュレッダーに書類を詰め込み音を立てて飲み込まれて行く検体者記録の文字を虚な気持ちで見つめた。
     同僚たちからの視線には納得が行く。きっとその立場なら俺も俺を疑うかもしれない。
    「そう言う奴はやってない。周りが何と言おうと放っておけ。」
     
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