せいめいせんながいやつのはなし「死にてえのか」
物凄い剣幕で伊吹に胸倉を掴まれた俺は一瞬視界が歪む。掴まれて引っ張られた襟が少しだけ首を圧迫した。
まさか志摩が死にたがりだったとはなぁと物騒なワードを織り交ぜながらしかし伊吹の間延びした声にため息をつく。
別に俺は死にたい訳じゃない。自ら死のうと思えばいつだって機会はあるのにそうしないことがその証明にはならないものかと俺は思った。
警察官である限り危険とは隣り合わせではあるがその中で職務中に死ぬ事のパーセンテージは世界からみて少ないだろう。
死にたがりと奴は言うが自分では率先して死に急いでいるわけではないしそれなりに痛いのも苦しいのもごめんだと思ってはいる。
ただ、物事に優先順位をつけるとすれば自分の命の順位が低くある事は確かだ。誰かを助けるのに自分の命が邪魔なのであれば切り捨てられる判断力はあると思っている。
ただあの時は場面に似つかわしくないメロンパンの歌が流れる中で緊張感を持って相手の動揺や恐怖につけいっただけだ。あのタイプの銃はマズルを握ればロックがかかって引き金はひけない、銃に詳しいのは本当の事だしあの男のビビリようで俺を撃てるとは思わなかったし何よりここには伊吹がいるとそう思っていたから。
「お前がいるだろ。」
「は?なに?」
「俺が死にそうな場面には多分きっと、この先お前がいる。だから俺は死なない。」
例えばもし俺がこの先本当の死にたがりになってもお前がさせないんだろうと思うとほっとする。
カチリとボタンを押すとあのどこかまの抜けたメロンパンの歌が流れ伊吹はよくわかんねぇけどと俺から視線を外して真っ直ぐと外を向き直す、信号が青になりアクセルを踏めば前に進んだ。
そっと伊吹の顔を横目で見ればまだ納得していませんという顔をしていて俺は思わず笑い出してしまう。
「おい、志摩!笑い事じゃないかんね!」
「はいはい、バカ前みろよ前!交通事故で殺す気か!」