其処に突っ立った儘か、それともこれからが本番か――。心を奪うつもりなら力量を見極めたいと挑んで来た相手をまさに完膚無き迄に打ちのめした直後だった。皮肉の混在した誘い文句にアレクシオスは目蓋を僅かに持ち上げ面食らった表情を見せたが、それも一瞬の事。相手の放った言葉の意図を理解出来ぬ程、アレクシオスは愚か者でも、ましてや色恋沙汰の駆引きに疎い訳では無かった。
地面に座り込む彼に手を差し出す。その差し伸べた手は武人の其れらしく、甲には無数の傷痕と指先は柄の握りで独特の歪みが生じている。タレタスは片側の口角を上げながら素直に応じ、その武骨な手の感触の悪さを堪能する風にも思える緩慢な動作で立ち上がった。
1504