雨降って、地固まる。そんな言葉は白樺派がよく似合うと思っていた。遠目でもわかる白い衣装に、ああ、またやってるなと目を細めれば、どうしてかあの綺麗な翠玉と目が合って微笑まれてしまう。過去も今も生の時間差はあるのだろうが、嫌われてはいないと感じてほっとする日々だった。
「秋声さんは、志賀のこと、嫌いなんですか?」
ぎくりと振り向けば、悪意など全く感じさせない純粋な疑問の眼がそこにあった。身長差もないからほぼ真正面に顔を向けられては、逸らすこともできない。
「別に……そう、思ったことはないけど」
どうしてそんなことを聞くのさ、と返せば、彼はふわふわとした赤毛を揺らしながら笑った。
「それなら良かったです。午後の潜書、僕と変わってくれませんか?」
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