Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    mdzs_xclove

    @mdzs_xclove

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 2

    mdzs_xclove

    ☆quiet follow

    あとちょっとで終わる…はず

    曦澄♀ 美女と野獣パロ メモ③つづきのつづき



    「江澄、体調が優れないと聞きました」
    控えめなノックが3回され、扉の向こうから優しげな声がする。
    江澄はずきずきと痛む頭を枕から起こして、扉へと目を向けた。
    立派な装飾の彫られた扉の向こうで耳を垂れさせる曦臣が透けて見えるようで、心がほわりと温かくなる。
    「入っていいぞ」
    声をあげると扉が開いて、曦臣が顔をのぞかせた。その巨躯を縮こませて耳をぺシャリと垂れさせる姿に頬が緩む。
    「江澄、食事を持ってきました。少しだけでいいので、何か食べてください」
    胡桃色の瞳を潤ませて、手に持ってきたトレイをベッドの横の机に置いた曦臣をぼんやりと見つめる。
    充分すぎる広さだと思っていた部屋だが、曦臣がいることで丁度良いと思えた。
    「それは?」
    曦臣が入ってきた扉の前に、何かが置かれているのが目に入る。
    あ…、と曦臣が声を漏らしてから、そそくさとそれを持って江澄の横へと戻ってくる。予想よりも大きな物に興味をそそられ覗き込むと、そこには蓮の花が浮かんでいた。
    「実は、丁度この蓮を別の場所へと運ぼうとしていたんです。湖も随分蓮が増えましたし、その…移動ついでに少しの間だけでも貴方に見せたくて」
    「…きれい」
    根ごと運んでいるためか、かなり大きな器に泥と共にいれられているが、簡素な環境でもその蓮の美しさは魅惑的なほどであった。
    江澄は引き寄せられような美しさにごくりと唾を飲んで、曦臣を見上げる。
    「ありがとう、凄く嬉しい。重かっただろう?」
    「いえ、いえ…。喜んで頂けたなら、嬉しいです」
    「…姉が、好きなんだ。私も、花は蓮が一等好きだ」
    「そう、でしたか」

    そう、流れで姉の話をして、ふと胸に翳りが落ちる。
    ここに来て数ヶ月たったが、姉や魏無羨の話を聞いていない。
    ここで過ごす時間は、とても楽しくて恵まれていた。だからだろうか、不安や心配なことを少しだって考えることがなかった。このまま時間が止まっていくような、そんな感覚がしていたのだ。
    けれど、一度姉のことを口に出してしまってから、途端に不安な気持ちが襲ってきた。魏無羨は、姉上は無事だろうか。姉上の具合は、病は、安否は、いまどのように過ごしているのだろう。
    波のように押し寄せる不安に、心臓が激しく波打つ。

    「江澄?」

    黙り込んで胸元をきつく掴んだ江澄を、曦臣が心配そうに覗き込む。
    ゆっくりと背中に優しく手を添えられて、糸が切れたような音がして江澄は曦臣を勢いよく見上げた。
    そして曦臣の肩に手を置いて、驚きに開いた目を見つめながら、はくはくと口を開く。

    「どうしましたか、江澄?」
    「…しーちぇ、曦臣」
    「うん」
    「私、わたし、帰りたい」
    「…っ」

    ぼろぼろと江澄の大きな瞳から涙が流れてくる。
    泣きたくなんてないのに、涙腺が壊れてしまったように大粒の涙が次から次へとこぼれ落ちてくる。

    蓮、雲夢、父上、母上、姉上、魏無羨…。
    私の大切な場所…大切な人たち。

    大きな杏仁眼から止めどなく溢れ出る涙がくるんと上向いた睫毛と頬を濡らしていく。頬は赤く上気し、小さな唇はひっくひっくと音を漏らしながら鮮やかに色づいていた。
    堰き止めていたものが噴き出すように、可哀想なくらいに泣き出す江澄を、曦臣は息を詰めて見つめていた。
    江澄は目尻を真っ赤にしながらも真っ直ぐに曦臣を見ていて、肩に置いていた両手は曦臣の胸元を縋るように掴んでいた。
    うっうっと肩を揺らす背をとんとんと叩いて江澄を宥めながらも、曦臣は眉を寄せて黙ったままだった。



    「…落ち着きましたか」
    「ひっく、うっ、ん…んん」
    ぐすぐすと鼻を鳴らしながら、ぎゅっと曦臣にしがみついていた江澄を、そっと撫でる。

    (…この子のために、出来ることをしよう)

    小さな形のいい頭を傷つけないように撫でて、曦臣はそっと目を伏せた。
    カタカタとガラス窓が音を立てる。曦臣の沈んでいく心を察したように空を暗い雲が覆い始める。

    曦臣は小さく震える江澄から手を離して、少し距離を取った。

    「ん、ぐす、曦臣…?」
    「江澄」

    離れた温もりを追いかけるように伸ばした江澄の手を包む。揺れる声を押し殺して、江澄への沢山の気持ちを込めて名前を呼ぶ。

    「江澄。家に帰りなさい」

    はく、と息を呑んで目を開く可愛い子を見つめて微笑む。涙で濡れた瞳が宝石のようだった。ぽかんと口を開けている姿だって、どんな顔をしていてもこの子はいつだって綺麗だ。

    「君の居場所に、帰りなさい」
    「…でも、」

    ぱっと驚きと喜びに震えた睫毛が、次第に苦しげに伏せられた。
    あぁ、なんて愛らしくて優しい子なんだろう。

    江澄に注がれるこれ以上ない愛情をたっぷり込めた胡桃色がゆらゆらと揺れていた。

    「いいんだ。魏公子の罪も、私が不問にする。…ごめんね、ごめんなさい。君を、ここに留めたのは私だ。君を、泣かせたくなかったのに」
    「いや、そんな、待ってくれ。すまない、少し不安になっただけだ。貴方が嫌で泣いたんじゃない」

    曦臣の言葉を聞いて江澄はふるふると首をふり、また曦臣へと手を伸ばした。
    江澄は自分の言葉が、この野獣に負い目を持たせてしまったことを察して、違う違うと繰り返した。
    幼な子が駄々をこねるようにひしと縋る少女を片手で撫でながら、曦臣は指を鳴らす。
    すぐに扉を開いて部屋へと入ってきた時計へ、目で指示を与える。

    「…あ、何を。どうするつもりだ?」
    「貴方の荷物を用意させます」
    「曦臣!!」
    「…聞いて」

    有無を言わせぬ、いつになく強い語調の曦臣に江澄は身をすくませる。しかしすぐに頭を撫でられてこっそり白い巨躯を見上げると、垂れた耳が弱々しく動いて目は寂しげな光で揺れていた。
    曦臣が、寂しがっている。
    江澄は、強気な行動に反した曦臣自身の様子に困惑しながら、仄かに嬉しいと思ってしまった。

    「貴方を、家に帰します。…そして、もし。もし、またここに戻りたいと…ここで、私と共に居てもいいと思って下さるのなら、」

    抑えきれない声の震えが、切実な響きとなって江澄の耳を低く深く揺らす。

    「ここに、戻ってきて下さい」

    ぽたり、と温かい雫が江澄の頬に落ちる。
    苦しそうに囁かれた声が、静かに江澄を抱きしめた。
    堪えきれないように顔を歪めて涙を流す曦臣を、髪で頬で背中で胸で腕で、触れるところ全てで感じていた。

    「…分かった。必ず」

    暖かさに溶けるように、江澄は瞳を閉じて囁いた。
    この人の優しさと途方もない寂しさを、受け入れてあげたい。

    この人の、側にいたい。

    そう願って、江澄はまた一つ、涙を流した。

    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😭👏👏👏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works