Change(未完成) 1
突然、辺りは薄暗くなる。先程まで美しく青い空が広がっていたが、一瞬にして黒い雲に覆われポツポツと雨が降り始めた。
何かが起こりそうな雰囲気だと三門市に住む人々は感じ取った。
その中でも界境防衛機関、通称ボーダーと呼ばれる組織の人々は警戒心をより強めた。
彼らは『近界民』が侵略することを知っていた。
迅悠一のサイドエフェクトにより、近々大規模侵攻並の被害が起こることを予知していたのだ。
そこで、今度は以前の大規模侵攻よりももっと被害を抑えようと一丸となって作戦をたてていた。
それぞれ周りを見渡すと空から黒く丸い球のようなものが現れる。それは建物を吹き飛ばす程の威力があり、ボーダー本部の屋上に待機していた隊員達の中にはそれを複雑な思いで見ている者もいた。
悪天候で視界が悪く、風も強い。このような状況下は狙撃手達にとって不利なものだった。
そんな中でも、屋上で待機する狙撃手の一人である別役太一はどこか落ち着きがあった。
「東さん。これ、那須隊と玉狛第二と戦ったと似たような状況ですね」
「そうか、太一は悪天候での戦闘経験があったな」
別役の隣にいた東春秋は、人は以前よりも更に成長するものだと感心して別役の顔を眺める。
「はい。なので任せてください。おれ、皆の役に立てるよう頑張ります」
周りにいる狙撃手らも皆、別役の成長を素直に嬉しく感じていた。
「あぁ。けれど、決して無茶はするなよ」
東は別役の肩をポンと一度軽く叩くと、別役は誇らしげに微笑んだ。
ゲートが開くと一斉にトリオン兵が現れ、皆は戦闘態勢に入る。
狙撃手の着るバッグワームは強風によりこれ以上ないくらいに煽られた。
2
あれは以前に見た新型トリオン兵だろうか。
不安を露わにするまいと心掛ける来馬辰也だが、隣にいる村上鋼にはその心情を見透かされていた。
『あれは、あの時の新型トリオン兵ではありません。少し形が違います。でも、気をつけてください』
内部通信で語りかける村上に来馬は思わずそちらを振り向く。顔に出ていたことを恥じらい冷や汗を一筋垂らした。
しかし、その後すぐに呼吸を整え武器を構えた。
第二次大規模侵攻を思い出す。あの頃は共に戦えない悔しさもあった。村上一人で戦わせるという判断しかできない自分を責めた。だが、今は鈴鳴らしい戦い方を編み出し勝ち抜いてきた。
『でも、今度は大丈夫だよね。だって鋼と一緒に戦えるから』
『はい』
村上の言葉のトーンはいつもよりどこか高かった。
冷静さを取り戻した来馬は、直ぐに本部にトリオン兵の特徴を連絡し、応援を頼む。その間、二人で時間を出来るだけ稼ぐことにした。
すると敵が空を飛び、光を放った。
それは村上と来馬を狙い、二人はタイミングを見計らい一定の距離を保ちながら避けた。
光が地面に当たると地震が起こったような衝撃波と地響きがした。
『この攻撃、雷みたいだね』
その証拠に地割れが発生し、焼け焦げている部分もある。焦げた臭いが鼻にツンとくる。
『奴が黒トリガー並みのトリオンを持たなければあの攻撃で乱発は、不可能な筈です。トリオン兵なので恐らく何度も打つことは無いと思いますが』
『うん、そうだね。とにかく油断せずに少しでも時間を稼ごう。そして、確実に敵の戦力を削ろう』
『了解』