好き司は時々、ふとした瞬間に思うのだ。
――類は、よく人を嫌いにならなかったなって。
幼い頃から、類が受けてきた言葉や態度を、司はすべて知っているわけじゃない。
けれど、聞いた話や、ふと漏れる記憶の断片、たまに見せる寂しげな目――
それだけで、想像できてしまうくらいには、傷つけられてきたんだとわかる。
悪意の言葉を平然と浴びせる大人たち。
自分より力を持つ誰かに押さえつけられる毎日。
あんなふうに冷たくされて、笑顔の裏にある嘲りを知って、
それでもなお――
類は「人が好き」だと言う。
人とお喋りするのが楽しい、
笑い合える時間が嬉しい、
誰かが喜んでくれると、心があったかくなる。
そんなふうに、当たり前みたいに言える類を、
司は心の底から「すごいな」と思った。
「人なんて、嫌いになっても仕方ないくらいのこと、たくさんされてきたのに」
ある夜、ぽつりと漏らした司の声に、類はきょとんとしていた。
「ん……嫌いになったこと、ないわけじゃないよ。
でもね、それ以上に、好きなとこがたくさんあったから」
にこっと笑って、
あたたかい瞳でそう言う類に、
司は胸の奥がぎゅっとなった。
「……お前が、ずっとそのままでいてくれてよかったって、思う」
「ん……?」
「お前がそのまま、優しくて、まっすぐで、人を好きでいてくれて……ほんと、よかった」
司はそう言って、類の頭を撫でた。
類は照れくさそうに目を細めて、モシを抱きしめた。
傷ついてもなお、人を信じて、
優しさを捨てなかった類を、
司は誰よりも尊く、大切に思っている。
だからこそ、自分が何よりの「好き」でいたい。
そう心に誓って、今日も類の笑顔を守る司だった。