マーキングされたい、と思う恋心 なんという厄日だ。
雨上がりに気をつけていなかった立香にも非はあるのだが。
以蔵のマンションの前で、乱暴な運転をする乗用車に行き当たってしまった。水たまりの濁った水を頭から思い切りかけられ、立香は思わず悲鳴を上げた。
「ぴゃぁぁぁぁっ」
気が動転し、階段を駆け上がって以蔵の家の玄関に入り、改めて己の惨状を見下ろす。
オレンジ色の髪の先からは水滴が滴り、タイルの敷かれた三和土に垂れている。可愛いブラウスとスカートには黒い水が軌跡を描き、すぐ洗わなければ染みになりそうだ。
幸いここは、自宅と同じくらいに馴染んだ家である。たぶん立香は家主よりもこの家に詳しい。
床を汚したくないから玄関で服を脱ぎ、下着姿で洗面所へ入る。よく汚れが落ちると評判の洗濯石鹸(当然立香が持ち込んだ)を塗りつけ、洗濯機をおしゃれ着コースで回す。
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