カキゼイ新刊の進捗 春は穏やかな季節である。なんて、そんなこと誰が言ったんだ。
海の上には霞みが白く立ちこめていた。傘を差すか迷うくらいの、しっとりとした水気が身体を濡らして冷えていく。風も強い北風へと変わり、遠くの空から低く唸るような音がした。
何もない海にぽつんとたったこの学園の、どこかぬるい空気は嫌いじゃない。けれどオイラにとって春はいつも、嵐を連れてくる季節だった。豪雨のようなとめどない才能をもち、生きている限り避けられない、自然災害のように立ちふさがる。あいつが来たのが、春だったから。
「なぁ、今何連勝だっけ」
「これに勝ったら……、五十連勝……」
「マジか……いったい誰なら止められるんだ?」
コートの外から、圧倒されたような部員の会話が耳に届く。 ダメだ。今は目の前の戦いに集中しろ。オーブは使わないと自分で決めた。気を抜くんじゃない。相手を最後の一体に追い詰め、頬に落ちてきた水滴も拭ってニヤリと前を見据え直す。
28282