「ねぇ、いっそのことおれたちで付き合ってみる?」
それは確かに三度目のデートなんて、告白にはうってつけのタイミングだったような気がする。
まぁデートという名は付かない、ただ二人でうちで過ごすだけの会ではあったが。
春宮のことが好きな柊迫と、伊佐のことが好きな俺。うるさいのなんて嫌いなのに、喧しい男に構われて嬉しくなってしまった愚か者同士。
当然のように気が合うから、甘いものや茶をお供にぽつぽつとそういう話をすることもあった。
あんな真っ直ぐな目で「しゅーちゃん大好き!」なんて言う男に返せる「好き」は俺は持ち合わせていなかったし、柊迫に言わせれば「おれと臣さんが付き合うのなんて解釈違い」だそうだ。
俺たちはその気持ちに「不毛」と名付けた者同士でもあった。
「だからさ、こんな不毛なことやめて、一回おれたちで付き合うのもありかなって。」
ぼんやりと経緯に思いを馳せていたら、補足をするみたいに柊迫が言葉を重ねた。
酷いな。そんな捨て猫みたいな、縋るみたいな顔で見て。俺が放っておけないのをきっとわかっている。
「……いいぞ。」
「え?」
「付き合ってみるか。」
「……ほんとに?」
「自分から言い出したことだろ。」
おれのこと見捨てるわけがないでしょ、そんな風に言いたげな顔をしていた割にこちらの回答に面食らっていて面白かった。伊佐に見せられた、宇宙を背負った猫の画像をふと連想する。
「付き合った記念にキスでもするか?」
「……する。」
変に思い詰めてそうだったから、軽い冗談のつもりだった。だから、返ってきた答えには少し驚いた。
それでも、まぁ、付き合うならそうか。という程度の感想しかない。
おずおずと近づいてくる顔に手を添え、そっと唇を合わせた。
「これが楽しいの?」
「不愉快だったか?」
「いや。柔らかいなぁくらいしか感じなかったから。」
「……好きな人とすれば違うのかもな。」
「…………おれ、ちゃんと秀さんのこと好きだよ?これじゃ足りない?」
「それは、俺にはわからないな。」
「ふーん。……秀さんの愛情が足りてないんじゃない?」
「……好きだよ。侃。」
聞くやいなや顔をくしゃりと歪めた柊迫の口に、再び触れる。意地悪だったかな、なんて思いながら口を薄く開け、舌を伸ばす。こっちばかりのせいにされてムキになっていたのかもしれない。それでも、対抗するように柊迫も舌を伸ばしてきた。
いまいち現実味のない水音がぴちゃぴちゃと二人の間に響いて、頭がぼーっとしていく。
どのくらいそうしていたのかわからないが、どちらからともなく顔を離した。
「……どうだった?」
「んー……。癖になったら困るなって。」
そう言って柊迫は自嘲気味に笑っていた。興奮なんて覚えなくとも、その顔は好ましいなと思った。