キンモクセイと金木犀海賊王という座に君臨し、世界中を旅してから幾分過ぎただろうか。
ここ2、3年は四季に賑わうこの島でルフィは恋人であるローと思いのまま過ごしている。
夏の暑さは身を潜め、冬に向かい身支度をする秋の冷えた風が島には吹いていた。
基本他のクルー達は思い思いに過ごし、ごく稀に両船の数人が遊びに来て他愛もない話をする日もあった。
この日は女性陣が遊びに来ていた。
ローとルフィの為にフランキーが建ててくれた寝室と水周り、キッチンのみある海沿いの小さな家のバルコニーでロビンが一人読書をしている所にルフィが近づき胡座を描き隣に座る。
何か言いたそうだが口をへの字にして首をぐりんぐりん傾げながら、性に合わず悩み続ける船長に思わずロビンが古書から顔を上げ一声掛けた。
「あら、ルフィ。どうしたの?何か悩んで
いるみたいね…トラ男君の事かしら?」
思わず自分の悩んでいる事を指摘され
ルフィは思わず大声を上げた。
「げー!なんでわかンだ!?」
「ふふふ、顔に書いてあるもの」
何でもかんでも 直感 で動くような男が、
この 海の王 になった男が、
たった一人の愛おしい人の為に
こんなにも悩んでいる姿が実に愛らしくて
ロビンは細く微笑んだ。
「それで?トラ男君の何に悩んでいるの?」
「実はよ、トラ男今日が誕生日なんだ!
欲しい物はねェって言うしよォ、
いつも通り過ごせれば良いしか言わねェんだ!でも折角の誕生日だろ?宴とはいかなくてもなーんかやってやりてェんだけど、
全然思い浮かばなくてよ…。」
あのトラ男君なら言いそうな返答ね。
ロビンはそんな二人の光景が手に取るように頭に浮かび上がりまた一つ笑みを零した。
「それは要するにいつも通り
貴方と居たいって事じゃないかしら?
ルフィとなら全てが特別な時間に
なっているって事だと思うわ。」
「そういう事なのか?でも何かしてやりてェんだ!だからって何か買ってやれる金もねェし、ロビン助けてくれ!」
それでも、と頑なに祝いたい気持ちを諦めない船長に どうしようかしら と考えていると、ふと家を囲むように植えられている木々に目を見やった。
「ルフィ、お花をプレゼントする
なんてどうかしら?」
「花?花か!それなら花屋に行ってくる!」
「待ってルフィ。私にいい考えがあるの。
トラ男君もきっと喜んでくれるはずよ。」
こうしてロビンとルフィのトラ男お祝い作戦は始まった。ーーー
日も暮れローを半ば強制的に連行しショッピングを満喫したイッカクとナミ、ルフィと一緒にローの誕生日プレゼントを選んだロビンは各々帰路へと向かった。
その日の夜。
今日はトラ男の誕生日だから!と、
一度言ったら何がなんでも曲げない男にローが折れ少し高いコースが運ばれる店で夕食を取り、少しだけ苦手なお酒を背伸びして飲み、どちらかともなく手を繋ぎ火照った熱を冷ますかのようにひんやりとした風を感じながら家に向かう道を並んで歩いていた。
どこからか漂う甘い香りに自然と歩調は緩くなっていた。
「なァ、トラ男。この匂い何の匂いか知ってるか?」
「いいや、わからねェな。
最近よく、香ってくるとは感じていたが。」
二人して立ち止まり辺りの匂いを確かめる。
「これは キンモクセイ っていう花の匂いらしいぞ!今日、ロビンに教えてもらったんだ!」
「へぇ、 金木犀 か。こんなに甘い香りのする花だとは初めて知った。よく考えりゃこの小さな花から香ってくるな。」
ローはそう呟くと徐に道沿いにある木々に咲いている小さな橙色の花に顔を寄せ、スンスンと匂いを嗅いだ。
「いい匂いだ。」
普段よりも柔らかく微笑む恋人の横顔にルフィの心臓はギュッと締め付けられる。
「なァ、トラ男!」
「ん…?なんだ?」
ルフィの少し緊張している様な、
少し焦っている様な声にローは顔を上げた。
手をさっきよりも強く握られ、
目の前の男が大きく息を吸う。
「ロー、誕生日おめでとう。」
しっかりと芯のある声で
しっかりと心のある目で
そう伝えてきた海の王である恋人は
顔を真っ赤にしていた。
「っ、麦わら屋、
顔やべェことになってるぞ」
思わずローはクスッと笑う。
「な!笑ってんじゃねェぞ!
俺、本気で言ったんだからな!」
「悪ィ悪ィ、わかってるよ。
ありがとうな…ルフィ。」
年下の恋人が拗ねないようにと笑う事を止め感謝の気持ちを伝えるローの顔も負けず劣らず真っ赤に染っていた。
「…にしし!おう!
あ!プレゼントがあんだ!」
何か思い出したようにハッと目をまん丸にしポケットから小さな包みをを出してきた。
「これ、ロビンと作ったんだ。
あ、ロビンとって言ったけど
ちゃんと全部俺が作ったからな!」
そう言って差し出してきた物を受け取り
包みを剥がす。
中に入っていたのは小さな橙色の花が沢山詰まっている小瓶だった。
「さっきの 金木犀 か?」
「おう!それ確か、 モイ…、モイストポプリ って言って長い間匂いが消えねェんだって!」
「モイストポプリ…」
「にしし!今日の事いつでも思い出せるようにな!匂いが香るまではちょっと時間は掛かるみてェだけど、綺麗だろ!
これならトラ男も喜んでくれるはずだってロビンも言ってたんだ」
そう言うと自慢げに歯をみせてニカッと笑う。
物を創作するなんて行為に疎そうな恋人が自分の喜ぶ姿を思い浮かべ考えながら作ってくれたプレゼント。
そう思うだけでローの胸をいっぱいにする材料には十分だった。
「あとな!後ででいいから、花…言葉!
キンモクセイ の花言葉調べてみてくれ!
それが俺からの誕生日プレゼントだッ」
「わかった、大事にする。
ちゃんと花言葉も調べてやるよ。」
「おう!とにかく!
ロー、誕生日おめでとう。
生まれてきてくれてありがとうな!」
「あァ、俺もお前に出会えてよかった。
最高の誕生日になった。ありがとうな、」
ールフィ。
最後の一言は甘い香りと口付けによって包まれた。
『気高い』貴方に『誘惑』された
『真実』の『初恋』
END.