初雪 乱太郎目線夜に寒くて目が覚めてしまった乱太郎。
きり丸しんべい二人の規則寝息が響いてるが、
やけに静けさを感じていた。
もしかしてと外に出るとやはり雪が降っていた。
「やっぱり・・・。」
月の光で空が少し明るい為、うっすらと地面が濡れているのが見えた。
先ほど押入れから出した半纏を着ると、医務室で
薬湯か白湯でも作って飲もうと部屋から出ていく。
医務室に着くとボウっと灯りがついていて先輩方かな?
と恐る恐る開けると角火鉢で暖をとっていた伏木蔵がいた。
「あ、乱太郎。」
「伏木蔵。起きてたんだ。」
伏木蔵がおいでおいでと手招きをしてくれたので遠慮なく隣に座る。
「伏木蔵も寒くて起きたの?」
「うん。変に目が覚めちゃったから、何か暖かい飲み物を
飲もうと来たのは良かったんだけど、暖をとってたら動けなくなっちゃって・・・。」
あははと力なく笑う。乱太郎もそれに釣られふふふと笑い
「わかるよ。暖かいと動けなくなくよね。」
顔を見合いあってふふと笑い合あった。
しばらくそのまま暖まると伏木蔵がうとうとしだした。
「もうそろそろ寝ようか。」
乱太郎がそう声をかけるとハッ!と顔を上げて「ごめん。」
と謝って来たので「なんで謝るの?」と聞くと、
「僕がうとうとしたから気を使ったんでしょ?乱太郎まだ寒いんじゃない?」
「もう暖かいから大丈夫だよ。ありがとう。もう遅いから寝よう。」ね?と同意を求め、伏木蔵は納得はしてないがとりあえず乱太郎に従う事にしたようだ。
乱太郎はすぐに炭挟みで灰をかけ、蓋をし、火鉢を元の場所に戻し、伏木蔵は灯りをふっと消した。
二人で部屋を出るとひゅうと冷たい風が二人のせっかく暖まった体温を奪っていく。
「うう寒い・・・」
「ほんとだね。スリル〜。」
改めて庭を見ると先ほどよりも雪が積もって地面が見えなくなっていた。
相変わらず雪がひらひらと小人が舞踊っているように降っている光景が広がっていた。
「寒いはずだね。」
「だね~」
すると乱太郎はヘブシ!とクシャミを一つ。
「やっぱりまだ暖まってなかったんじゃない?」
「うーん、大丈夫だと思ったんだけど。」
鼻水をずるっとすすり、暖かくしようと体をさする。
伏木蔵が申し訳なさそうに乱太郎を見て「ごめんね。」
と再度謝って来た。
「伏木蔵のせいじゃないでしょ?早く戻ろう。」
行こうとする乱太郎の前に伏木蔵がついっと出て、さすっていた両手を
手に取り、口元に持っていき「はぁ〜」と温かい息をかける。
「あ、いいよ。」「ちょっとだけだから。」再度はぁ〜と息をかける。
「ありがとう。もういいよ。」
伏木蔵の手から離そうとすると、その手の動きと共に伏木蔵もついてくる。
「え?」
驚いていたが、伏木蔵が倒れこんだのをそのまま受け止めた。
「伏木蔵?」
伏木蔵がすっぽり胸に顔を埋めて見えないので乱太郎は少し困ってしまったが、ふと「もしかして暖めてくれてるの?」と聞いてみた。
慈顔の笑みを浮かべて伏木蔵の頭を撫でる。
何も返事はないが伏木蔵の事だからきっとそうじゃないかと納得した。
「ありがとう伏木蔵。」
抱きついてる伏木蔵に抱き返してやるとびくと肩が揺れた。
「もしかして伏木蔵も寒いんじゃない?早く戻ろう。」
心配でそう声をかけると、もぞっと上目使いで乱太郎を見つめ何かボソっと呟いたので「なに?」っと伏木蔵の目を見て聞き返すと、胸の所にあった手で服をひっぱられそのまま口をつけてしまった。
すぐに伏木蔵が離れたが、その際に唇をペロっと舐められそれを理解できずに固まってしまった。
少し二人の間に沈黙が流れたが、何ごともなかったように
「足止めさせてごめんね。先に戻ってるから。」
と伏木蔵はスタスタと歩いて行ってしまった。
「え?」
乱太郎はどんどん行ってしまう伏木蔵を眺めて動けなかった。
「おはよう乱太郎。」
すっかり寝不足になってしまった乱太郎を気にせず挨拶をする伏木蔵。
ギクッと一瞬動きが止まったが改めて伏木蔵の顔を見て「おはよう。」とぎこちない返事で返す。
あまりにも普通にしているので夢なんじゃないかと頭をよぎるが、
「風邪ひかないように気をつけるんだよ。」と横を通り過ぎる際に言われたので、思わず座り込んで頭を抱える乱太郎だった。