然うして鬼は笑う「お前をあの鬼への最後の生贄にする。鬼を殺してこい」

　久方ぶりに聞いた他人の声は、其れだった。


　どこで産まれたのか、親は誰なのか、そもそも僕は人間なのか。それすらも判らない。とある山間の小さな村の孤児、其れが僕だった。拾われた際、「想楽」とだけ書かれた布を持っていたらしく、それが僕の名前だった。
　頭の天辺は白く、下へ行くにつれて黒になる僕の髪は、異端児の証だと言われてきた。赤い目も、不吉なものだと皆が言う。村の中で僕は「怪物」のようだと言われていた。時には石を投げられ、時には拾ってきた今日の糧さえ奪われ。それでも死ぬ事が出来ないぐらいには、生かされてきた。
　その理由を知ったのは、つい先日。僕の住処としてる村の外れのボロ小屋に村長がやってきて、言ったのだ。

「クリスさん、エスコート、上手かったじゃないー？」
「そうですね、下手ではないと思っていますが」
「うん。上手だった…………それで、何人の女の人を、ドキドキさせてきたのか、僕が嫉妬するくらいにはねー」
「嫉妬……？」
「……」

クリスさんが、思ってもみなかった、みたいに瞳をぱちぱちとまたたかせる。なんで、そんな驚いてるのさ。

「……想楽、それはつまり」

クリスさんは、びっくりしたみたいに僕をボケーッと見て、それから、口角がゆるんでいく。そうだったんですね、なんて呟いた。

「嬉しいです」
「え……？」

なんで、と言おうとして、口を閉じる。クリスさんが、僕を抱きしめてきたから。
あたたかい温度が伝わる。クリスさんの、鍛えられてる身体は、大きくて、がっしりしていて、僕より成熟した男の人なのだという意識がぼんやりと頭の片隅に浮かぶ。