シルの玄孫くらいの代の話 私の家には、一枚の肖像画がある。
青と緑の宝石が惜しげも無く使われているそれは、代々当主によって厳重に管理され、日の目を見ることはほとんどない。しかしその美しさは目に焼き付いて離れないほどで、誰に見られるわけでもないこの絵に揺るぎない価値を感じさせた。
それは、統一王国の初代国王と大司教の肖像画であった。
統一王国の北の果て。異国との境に位置する由緒正しき我が家は、かつて英雄の遺産の無比なる力をもって他国を牽制し、その恩として国王より重大な辺境伯の地位を賜った。しかし高祖父にあたるシルヴァン=ジョゼ=ゴーティエの代から、我々の役目は血を流さなくなった。
俗にフォドラ統一戦争と呼ばれる大戦で、私が生まれた国の前身であるファーガス神聖王国は勝利を果たした。王家伝来の類まれなる膂力を持つ当時の王と、前大司教より直々に後任に据えられた才気煥発な大司教──その時分はまだ軍師であり大司教代理であった──によって、膠着状態に陥っていた戦線はみるみるうちに帝国まで押し上げられ、まもなく五年に及ぶ戦争は終結したと記されている。王は、戦争を終わらせたこと、対話と友愛を重んじ血を流さない政治を目指したことなどから、救国王という諡で現在まで絶えずその名が残っている。そしてその王を支える忠実な臣下として、我がゴーティエ家もまたあり方を変えてゆくこととなった。
2016