酒場おじじの名前が知りたいしぐ「ああ、そんな感じ。後はこれ入れてステアして」
シオン「ん」
老星が一人座るだけのバーカウンターの向こうでバーテン姿の二人が酒に手を加えている。
老星「いあやはや、何度見てもお前さんがたはうりふたつじゃの。光(コア)の見分けがつかぬよ、すまんのう」
シオン「仕方ありませんよ、どうぞ。」
作り終わった酒を老星にだす。
しぐ「まぁちょっと複雑な事情でなぁ…じぃさんが謝る事じゃねぇよ。」
髪も身長も魔法によって変えられる星の子達の個人の確実な見分け方は、コアの光だ。
コアの光だけは変えることができない事になっている。
シオンは俺をもとに造られたようなモノだ。
俺からすればもう別人なのだが、魔法の祠などからも未だに俺だと彼は認識されている。
そんな光の差を見分けられるの者はそんなに多くはない。
いるだけましだ。
老星「そうかのぅ…」
老星がゆっくりと純粋な哀れみの視線を仕上げの一滴グラスに落とし、その口に傾ける。
しぐ「できはどうだよ?おい、シオンも飲んで覚えろ」
シオン「…味は無理だよ、俺に味覚はない」
しぐ「え、マジで?うーん、光の差異はわかるか?」
シオン「それなら」
老星「ふぉっふぉ、わしの味見が必須になるのは嬉しい事じゃのう。うむ、いつもの味になっとるよ。」
しぐ「じーさん、味見じゃなくても飲むじゃん…まぁ、俺がいない時は二人三脚しててよ。」
この酒場はこのじーさんの親友が営んでいたそうだ、しかしある日彼は戻ってこなかった。
じーさんはずっとこの酒場を維持してすごしていたそうだ、酒は作れないから開店はできなかったが。
じじぃが自分での呑む用の酒瓶があけれず途方に暮れいていた所に出くわし、開けてやったらあれよあれよとここの臨時バーテンになってしまった。
どうしてそうなって?俺も聞きてーよ…
なんにせよ、あまり現状を長く続ける気はなかったからシオンに押し付ける事にした。
やりたいことが見つかるまではじじぃの相手をさせておこう。
思考しながらも2杯3杯と次々シオンに仕込み、つくった酒を3人で飲干す。
二桁をとうに過ぎた頃、シオンが物に寄りかかるようになる。
老星「今日はここまでじゃのう、片づけはわしがするからシオン君はそこでやすむとよい」
しぐ「、お前酔えるの??」
じじぃは蟒蛇だし、俺も酒はきかない。こいつもそうだと思ってどんどん飲ませてしまった。
老星が用意した茶を飲みながら壁際の椅子にすわり壁によりかかっているシオンの隣に座る。
しぐ「悪い、ついほぼ自分と同じだって思うと確認を怠るなぁ」
シオン「いあ、俺も呑むのは初めてだったから。上限が知れて、かえってよかったよ」
静かに目を閉じているシオンをまじまじと観察する。
シオン「…なんだよ」
しぐ「ん-初めてじゃないとはいえ不思議だなぁって、まぁあの時はそもそも敵対してたしなぁ」
頬杖をつき過去にわかれていた時の事を思い返す。
しぐ「侵されなくて、背負うものもなくて、生死の自由があると俺ってお前みたいになるんだな」
シオン「うらやましいか?」
しぐ「うーん、汚染がないのはうらやましいけど、ぐずぐずうじうじしてる自分モドキをみるのは気持ち悪いかな。」
頬杖をたおしカウンターに突っ伏す。
シオン「…君はあの子達がいるからそうあれるんだろう。」
元になった者さえ自分を曖昧に見ている事に苛立ちがまた募る。
しぐ「そぉーだけどぉー、お前が俺がそうなってるの見たらそう思うだろ」
シオン「思わないね。君がどうなってようが俺には関係ない。君と俺は別モノだ。」
しぐ「おや、そこは即答か」
再び頬杖をついて改めてシオンをみる。赤と水色のオッドアイがかすかな苛立ちをにじませている。
シオン「『シオン』の記憶にひっぱられるな、それはあの『シオン』のものだ。」
しぐ「あらやだー、逆に叱咤されちゃったー。」
シオンが深いため息をつく。
しぐ「目障りなんだよねぇ、でも俺はお前と関わることを選んだからさぁ。うまくやりたいし、心配してんの」
シオン「お気遣いどうも、遠慮もしてくれると助かるね」
しぐ「お前相手にー?無駄じゃーん、お互い手の内ばれてんだぜ?ほれ、ほれさっさと吐いちまえよ」
残りの茶を飲み干し、コップを洗いしまう。
シオン「おじいさん、今日はこれで失礼するよ。」
老星「ほい、おやすみなんじゃよ。」
駄目かーと背伸びをしてしぐも立ち上がる。
しぐ「じーさんおやすみー、あんまり飲みすぎるなよー」
ほーっほほと老星の柔らかな声が遠のいていく。
振り返ると灯籠に身を寄せているシオンがいた。
しぐ「え、ガチ限界?飛ぶ余裕ない感じ?」
顔を上げたシオンの目がすわっている。
シオン「違うよ、その手前だけどさ。話聞くんだろ?あの場で俺がしゃべると思ってたの」
しぐ「思ってなかったし、あの場じゃなくても言わないだろうなぁと」
もたれているシオンを俵担ぎし、自室に向かう。
シオン「雑」
しぐ「おや、では姫のように抱えましょうか?」
シオン「…話すのやめようかな」
湯豆腐「おかえり。あれ、えーっとシオン・アスターさん?」
シオン「シオンでいいですよ、お邪魔します。」
しぐ「ただいまぁ、はんなりは寝た?」
湯豆腐「今日はちょっとぐずってたけどね、さっき寝たよ。」
ソファにシオンを下ろし、寝室をそぉっと覗く。
愛しい光がカニとエビのぬいぐるみをぎゅうぎゅうと抱えて寝息をたてている。
しぐ「明日はカビ子にあわせてあげないとな」
手を洗いお茶を入れている湯豆腐に声をかける。
しぐ「湯ぅ、後は俺がやるから寝ていいよ」
湯豆腐「じゃあそうするよ。シオンさん、ごゆっくり。」
興味なさそうに湯豆腐が寝室に消える。
シオン「…以外だね、もっと嫌われてるかと思ってた」
しぐ「んー、まぁ湯豆腐も思うところはあるだろうけど俺が関わるって決めたからね。」
茶を並べ、ソファにドカリと一人分あけた隣座る。
しぐ「で、悲劇のヒロインさんは何に嘆いてらっしゃるんです?」
シオン「いちいち煽らないと会話できないの?」
シオンが気だるげに手を伸ばし茶をすする。
しぐ「わかってんだろー、まどろっこしいのめんどくさくなってきてんだよー」
シオン「…君が無くしたモノだよ、そういう話だ。」
しぐ「へぇ、そっち系かぁ。なるほどなぁ、本当に違うんだな」
背もたれに身を預け天井を見上げる。
コアの光が二つに分かれ、一つに戻っても恋愛感情だけは欠落したままだった。
自分のはなくしたのか元からなのかわからないが、このシオンには存在しているようだ。
シオン「でもそうだね、たしかに俺は悲劇のヒロインに浸ってたのかもしれない」
しぐ「まぁそれだけ余裕があるってことじゃん、平和平和」
オリジナルシオンの生き様や、半分欠けたまま湯豆腐といた時をおもえばなんと穏やかな事だろう。
迷っている余裕なんてなかった。
しぐ「そっかぁ、ステラちゃんかぁ」
シオンが茶で咽ている。
しぐ「感情はないけど状況と自分に近い思考だぜ、推測はできるよ。どうせ見分けがついててまっすぐ見てくれる彼女がまぶしかったんだろ?」
茶を注ぎ直してやる。
しぐ「はー、そっかそっか。ないものがあるのかー、だからかー。」
シオン「一人でスッキリしないでくれないか」
しぐ「いあー、その可能性まったく思いついてなかったからさぁ…ふーん、で、どうすんの?ヒロイン続行?」
クッションに体をうずめるようにシオンがソファに横になる。
シオン「…傍にいたいとは思う」
しぐ「やるだけやってしっかりふられて来いよ、俺もお前も可能性がある限り終われない。同じ思考で何十倍も時間をすごしてる俺が断言してやるよ。」
長い沈黙が続き、寝息が聞こえてきた。
湯豆腐「はい、毛布」
しぐ「んー、あんがと。本当に寝ててよかったんだよ」
そっとシオンに毛布をかけてやる。
湯豆腐「ずいぶん急かすんだね」
しぐ「…この子は星の子と同じ時間を生きられないよ。」
茶器を片づけて、はんなりの朝食の下ごしらえをしていく。
しぐ「あのシオン…ややこしいな、オリジナルシオンでいいか。俺もその記憶みてるんだ、今度こそ悔いなく生きた!ってしてほしいじゃん」
湯豆腐「自分勝手」
しぐ「それこそ今更だろー。湯豆腐さん、食感が楽しかった食材えらんでよ。」
湯豆腐「今ある中だったらこれかな、シオンさん味覚とぼしいの?」
しぐ「無いってさ。まぁ物は考えようだよ、使えると思えない?」
コンコンと鍋を叩く
湯豆腐「そっか、ステラさんの」
しぐ「そういう事ー。それに俺が何か言っても答えを決めるまでの時間しか変わらないよ」
続きははんなりさんが朝食と共にたべちゃいました。