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    mugyu1219

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    mugyu1219

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    「言ってはいけないあの日」の話。
    エピ凪を読んで「玲王を救済しなければ!!」と魔法学校編に絡ませて勢いで書いてしまいました。
    この二人は一話目ですでに付き合っているのでどう足掻いても恋人なのですが、付き合ったの六年生なので、めんroのときは両片思いしてました。
    クディッチの話はここまで詳しく書く予定なかったけど二人の未来のためには書いて良かったかもしれないです。

    MAGIC is LIGHT 【救済編】 一度、玲王を酷く傷つけてしまったことがある。
     そのことを、悔やんでも悔やんでも、ずっと玲王の心には残ったままなのだろう。
     昔を知るチームメイトはことも無さげに言った。
    「お前たちって、一回大喧嘩したことなかった? 全然喋ってなかった時期あったろ」
     うん、とだけ言ってすぐに口を噤んだ。人から『喧嘩』と言われて、「ああ、ああいうのが喧嘩というのか」と思った。だって、生まれて初めての友達が玲王で、喧嘩したのも初めてだった。
     俺は今でも、それを悔やんでいる。
     
     ⌘
     
     今年の箒蹴球W杯で、在籍中から活躍する魔法学校生徒の中でも注目すべき選手がいる。まずは、魔法学校一年生から箒蹴球チームにスカウトされ入団している凪誠士郎選手と御影玲王選手だ。この二人の登場はまさに箒蹴球界に超新生ダブルエース現る!! という見出しで日刊予言者新聞を騒がせたことで覚えている読者も多いのではないだろうか。若干十二歳で彗星の如く現れた二人ですが、魔法学校一年生で箒蹴球チームに選ばれるのは数百年に一度逸材、それが一気に二人も!
     その頃は御影玲王選手がシーカー、凪誠士郎はビーターとして活躍。二人が学校の枠を超え、プロに召集されたのは彼らが四年生の頃。これも史上最年少のプロ招集で、ポジションは御影選手がチェイサーで、凪選手がシーカーだった。彼らは別々のチームに所属。四年次は主に控え選手でしたが、在学中に、しかもまだ四年生でプロ招集とは! 物凄いですねぇ。天才としか言いようがない。
     惜しくもW杯への出場は叶わなかったが、二人が出場して激突した試合は白熱した名試合だった。そのときは凪選手率いるチーム、キング・フォー・ホワイトが勝利し、試合の駒を進めたが、凪選手もこの年はW杯には選出されなかった。在学中のプロプレーヤーは一年契約なので、凪選手は五年次、バスタード・ミュンヘンに所属。御影選手はその年の所属はなし。翌年の六年次、凪選手と御影選手は揃ってマンシャイン・C・シティとプロ契約、レギュラーで華々しい活躍をしてリーグ優勝を果たし、二人はその年の英国代表に召集、箒蹴球W杯初出場を果たした。W杯では第三戦でブラジルに敗北。在学中ラストイヤーの今年、どうなるのか。試合が楽しみである。

     さて、今日は、その二人がゲスト! ……なんてことは叶わず! しかし、二人とマンシャイン・C・シティのプロチームで同じチームメイトとして一緒に戦ったことのある千切豹馬選手にロングインタビューです! 
    「凪と玲王じゃなくてごめんね〜? ど〜も〜、千切でーす。今二人は試合前の最終調整中ですからね〜」
     千切選手、ご出演ありがとうございます! 千切選手から見て、二人の箒蹴球はどうですか?
    「ワンチャン、優勝期待していいと思いますね〜。玲王は一回すげえ挫折を味わってて、その原因が相棒である凪だったんでね。あの時は、ま〜〜あ! メンタルフルボッコでしたよ。頭にキノコ生えるんじゃね? ってレベルで。でも弱い奴じゃないんで、玲王は。それまでは、天才凪を手懐けて上手く使えるプレーヤーって感じだったけど、確かに凪ありきの選手になってた。だから、翌年は絶対凪なしで選ばれるようにって、相当努力してましたからね。凪と玲王が同じチームだったことに一番驚いてたのも玲王だったなー。練習中も気まずそうな顔してるから、とりあえず凪と仲直りして来いよって言ったかな?」
     かつての相棒が一人だけ遠くに行ってしまったような気がしてしまったんでしょうか。御影選手もそりゃあ辛くて、躍起になりますよね。
    「そーねぇ……まぁ、凪は天才ですよ。あいつとプレーした奴なら誰だってそう思う。でも……凪の方が玲王のこと気にしてたかな。凪は四年生の頃に潔世一(選手)のプレーに影響を受けて、箒蹴球が楽しいって思ったらしいけど、それを玲王が変に受け止めて拗れたっつーか……」
     日本代表の潔世一選手ですね。彼も素晴らしい箒蹴球選手ですね! 確かに、凪選手のインタビューで潔選手について触れていましたが、やっぱり凪選手と言えば傍には御影選手、というイメージが強いです。
    「……ええ、それでいいですし。今後もきっとそうであると思いますよ」
     
     ⌘
     
    「変わっちまったんだよ、お前は」
     そう玲王に言われたときの自分を、今もどういい表していいのか分からない。例えるなら、足場が急におぼつかなくなって、崖っぷちからいきなり突き飛ばされた感じ。真っ暗な闇の中、底のない奈落へ落ちていくような感覚。今まであったものが全て形を変えてしまった瞬間だった。
    「だったらさ……」
     ナイターの光も落ちて、真っ暗な球場と、空の上には細かい星屑がチカチカと光る夜だった。玲王のチームと戦って、俺のチームが僅差で勝った。話がしたいと、声をかけた玲王は酷く冷たくて、案の定、俺も酷いことを言ってしまった。
    「めんどくさいよ。玲王」
     そんなこと、思ったことなかったのに。
     玲王と離れた途端、時計の進む針が遅く感じた。玲王と一緒にいない自分に疑問を感じたけど、玲王は俺の元に来てはくれなかった。あの時感じた気持ちは、今でもずっと俺の中にある。
     
     学生で出る最後のW杯の前に、どうしても玲王に言いたいことがあった。二人きりでちょっと話したいんだって言ったら、玲王は最初「なんだよ、告白か?」なんて茶化していたけど、「……『あの日』の話なんだけどさ」と言えばすぐに玲王は勘づいた。俺たちの七年間の魔法学校生活の中で、『あの日』、話題に出してはいけない、、、、、、、、、、、あの時がある。
    「いきなり?」
    「来週からW杯始まるし」
    「あー……、今更じゃね?」
    「レオ、ずっと勘違いしてると思うから言うね。俺は『あの日』もずっとお前が好きだったよ」
     そういったときの玲王の丸くした目は、あまりにも真ん丸くて落っこちてしまうんじゃないかと思うほどだった。いつか、絶対言わないといけないと思って、言えなかったこと。
    「レオを嫌いになった瞬間なんて、一秒もなかった。俺はずっと、レオが好きだった。出逢ってからずっと」
     玲王の前にことりと置いた瓶を見て玲王は納得していた。本音ほんね薬──魔法薬学で調合できる薬のひとつ。玲王なら液体の色と独特に薫る魔法香できっと全て理解したに違いない。口下手で、言葉にするのが苦手な俺が、どうしても伝えたい意思だけでも受け取ってくれたら万歳だ。
    「レオにめんどくさい、なんて、言ってごめん。俺はお前とした約束が何より一番大事だったから……。約束忘れたって言われて……、カッとなった」
     玲王が俺のことを好きだと示してくれたのだから、もっと早く言いたくて、ずっと言う機会がなかった。だから、最後のW杯の前に言いたいと思った。玲王は罰の悪そうな顔で俯いている。「あの日も言ったけど、玲王が箒蹴球に誘ってくれた瞬間から、俺たちはずっと一緒だって思って……、無理やり思って、がんばってこれた。これからも、ずっと、お前と一緒に居たかったから」
     玲王は頷くことも相槌をつくこともなく、伏せ目がちに俺の話を聞いていた。
    「あの日、お前レオを置いていったこと、後悔してる」
    「いや……、お前とあそこで一旦離れてなかったら、俺は強くなれなかった。お前は間違ってねぇよ」
    「そうだね。玲王は強くなったし、俺も強くなった。あの時さ、お前レオに『変わった』って言われて、自分は変わってないと思ったんだけどさ。俺、きっと、変わりたかったんだよ。あのとき、もし変わってなかったらもっと早く俺たちはダメになってたと思う」
     二人で今もW杯に出れるのは、強くなったから以外の何者でもない。最初の二人は無敵だったけど、敗北を知って成長がなかったら、今の自分たちはいなかった。
    「レオから見た俺は、勝手に変わっていった裏切り者だったかもしれない。でも、俺はレオが誘ってくれなかったら箒球蹴なんてやってなかった。ただ、レオが優勝したいって夢を、一緒に追いたかった。だから強くなりたかった」
     玲王の瞳はいつだって真っ直ぐ前だけを見ていた。それなのに、いつのまにか俺の方が玲王より遠くに行ってしまった。
     だって、俺は、【俺さえ変われば】強くなれると思ったんだ。玲王が変わる必要なんて感じなかったし、多分、自分のことしか考えられなかったんだ。
    本音ホンネ薬使ってまで、俺にそれを言いたかったのか?」
    「そうだよ。そんなめんどくさいこと、俺がレオ以外にすると思う? もっと、本当は早く、玲王に言いたかった」
     すぐに言えなかったのは、せっかく修復した関係を壊したくなかったから。恋人になったら、もっと怖くなった。
    「レオにとって、あの日の俺はきっと悪者だったかもしれないけど、俺にとってレオは『ずっと一緒にいたい人』だったよ」
     こんなに喋っているのに一向に疲れない。いつもの俺だったら絶対疲れてそろそろ口を閉ざしている。本音ホンネ薬の作り方、面倒だったけど作ってみてよかった。効果はたったの三十分のくせに、作るのには三日かかったけど。でも、ずっと後悔していたことだったから。玲王の網膜がうるうると水気を帯びているように見えた。
    「レオといたいから頑張って強くなろうとしたのに、レオのこと追い詰めた。今でも後悔してるし、未練たらたらで、ずっと目でレオのこと追ってたけど、レオは俺のことどうでもいいって思ってるかもしれないって思ってたから……」
    「は……、やく、それ、言え……よ」
    「後悔も未練もあるなんて、普通の俺ならめんどくさ、って思って、全部捨てて楽になると思うんだけどさ。レオとの夢、一人でも追ってたのはレオなら俺のこと追い抜かすだろって、期待もしてた。だって、レオは優秀だから」
     優秀、と言った途端、玲王の顔が一気にぐしゃぐしゃになってしまった。紙をぐしゃりと丸めたみたいに、端正に整った綺麗な顔が歪んで泣くように玲王は笑った。
    「……お前ってさぁ、本当に俺にトドメ刺すのがうめぇよなぁ」
    「え?」
    「…………俺のこと、また殺す気かよ」
    「ごめん。今、なんて言った?」
    「いや、なんでもない。独り言だ。お前にしちゃ、よく喋ってくれたなぁ」
     そう笑う顔は確かに笑っているのに苦しそうに見えた。最初から、笑える話じゃないとはわかっていたけど、俺もなんだか息苦しくて、だんだん嫌になってきた。
    「ごめん……言いたいこと、もっとまとめて話すつもりだったのに、なんか、上手く言えなかった」
    「いーよ。……てゆーか、十分すぎるくらい、色々伝わったし」
     玲王を泣かせたい訳ではないけど、こういう時泣いてくれたら、わかりやすく慰められるかもしれないのに、御影玲王には俺の中で常に格好良くて、優秀で、隙がない。
    「俺のために、ありがとな」
    「…………うん」
     玲王は俺の後頭部を撫でながら抱きしめてくれた。本当は俺が抱きしめる方なんじゃないかと思うけど、俺はそうされたかったからそのままでいた。
     毎日、毎秒、本音ホンネ薬を飲んだ方がいいのかもしれないと思うほど、俺の言葉は玲王に上手に伝わっていなかった。じゃあ、俺が本音で話したところで、玲王とどこまで分かり合えるのだろう。分かり合えるなんて、一生ないかもしれない。でも。でもさ。
    「俺にはレオが必要だよ。あの人は、俺が変わればレオの夢に近づけるってことしか頭になかった。俺たちは強くなった。もう二度と離れなくていいように」
    「…………ああ、分かってるよ」
     分かってないよ、とも思う。俺がどんなに、お前のことばかりか。お前のことしか、見えてなくて。俺の世界はお前しか要らないのに。
    「……じゃあさ、W杯が終わっても、ずっと一緒にいてね」
     恋人っていう肩書きでも、相方でも、相棒でも、なんだっていい。本音ホンネ薬まで使って真剣に伝えた先で玲王はいつもの太陽みたいな笑顔で笑う。
    「おいおい、明日の試合を控えて、それはねーんじゃねぇの?」
     初めて玲王に会った時の笑顔を思い出す。無邪気で無敵で、世界は玲王のためにあるような、自信に満ち溢れた笑顔。
    「……お前にさぁ、蛇じゃなくて、本物の杯を持たせてやりてぇんだけどなぁ」
     伝える気があるんだか、ないんだか、さらりとそんなこと言いながら「凪は、箒蹴球の天才だと俺は思うよ」と言った。
    「W杯、お前の手足になってやる。そんで、俺たちが最強になって、優勝したあとなら、考えてやってもいい」
     玲王はもう前を向いていた。
     俺を背にして。
     
     ⌘
     
     隣にいる凪の体温を抱きしめていい権利を得たことが全てだった。
     規則正しい寝息が聞こえる。完全に熟睡しきったことを確認して、そっとベットから抜け出した。
     凪が飲んだ本音ホンネ薬の空瓶には、独特の残り香がある。毒々しい青い液体は、魔法が作り出した色をしていた。
     実は、この本音ホンネ薬より強力な魔法があることを凪も知っている。だって凪は天才で、魔法薬学の本だって一読しただけでほぼ全てを覚えているんだから。ただ、学生の身分では作ることのできない劇薬だから、凪には入手不可能だったのだろう。
     実家でこっそり手に入れて、小瓶に移し替えて持ち歩いている薬瓶のひとつは無色透明で匂いもない。水のように澄んだ液体だ。たった三滴で自白を促せるベリタセラム──別名、真実薬である。その調合は難しく、一度に数量しか作ることができない貴重なものだ。小瓶の蓋を開けて舌の上に数滴垂らして口に含んだ。本来、学生への使用は禁止されているが、自分の意思で使っただけだし、罪に問われるほどでもない。話し相手が寝ている時に、たまたま使っただけ。
    「……『あの日』の俺さ、思い出したくもないほど嫌いなんだ」
     凪と本音で話したいのに、話したくなかった。あの時の自分を認めるのも、あの時の凪を思い出すのも、まだ怖い。そう言ってしまえば、お前の中の『御影玲王』を変えて欲しくなかった。小声で、ただの一人言という名の深夜の自白。
    「凪に『夢』ができたのも『楽しい』って感情が湧いたことも、ずっとそばにいた俺が一番喜ぶべきだったのに……試合中、お前に『諦めろよ』って思ったんだよ。自分が親父にそれ言われた時に殺意沸いたくせに。シンプルに最悪だろ?」
     凪のことを信用してないわけじゃない。凪のことは心から好きだ。恋人になってくれて、死ぬほど嬉しかった。
     だから、もう離れたりしたら──と考えると、息ができない。
    「弱くて、ゴミカスだった自分が嫌いで嫌いで……死にてぇって、初めて思った。誰か殺してくれって、生まれて初めて自分に絶望した。自分の弱さになんか気づかず、超優秀スーパーエリートな御影玲王のままでずっと居たかったんだ……もう、あの時の俺じゃねぇ。もう、俺も変わったんだ」 
     何度も心の中で凪に対して暴言を吐いた。お前に同じ想いを味合わしてやりたいって思ったこともあったんだって、そんなの、お前に一生言いたくねえんだ。そんな自分が存在ことがもう自分で自分を殺してやりたいほど憎くて、視野の狭くて幼い自分を認められない。
    「俺を一度殺したのは、間違いなく凪誠士郎だよ。そんで、生まれ変わったのもお前のおかげ……なんだろうなぁ」
     凪と離れたときの虚無感を今でも覚えている。お前を避け続けて、目も合わさなかったくせに、お前の面影ばかり探していた。同じ授業で視界の端に白髪が居眠りしているのを遠目から見て、胸が痛かった。箒蹴球で俺の知らない新技を習得しているのもムカついたし、お前がいないのに二人で歩いた道を歩くだけでお前を思い出して、記憶のなかで凪を見つける度に泣きそうになって歯をグッと喰いしばった。
    「俺だって! ずっとずっと、凪のこと好きだった……!」
     気づけば凪を目で追ってばかりで。でも、もう手に入らないと思っていた。ここからはもう一人で歩こうって、もう凪のこと、好きなこともやめようって、そう、思ったのに。
    「一人で、がんばらなきゃって思ってたのに、お前に『必要だ』って言われたら……嬉しくて、俺、お前に求められたかったんだ。かっこ、悪りぃだろ。お前がいなくて弱くなった御影玲王なんて、俺が許せねえんだよ、多分」
     凪の前では生まれ変わった強い御影玲王で居たいっていう、俺の我儘。
    「……お前が、帰って来ないかもって、怖くて寂しかった。お前の背中押してもやれねぇ。お前が好きになってくれた男はさ、そーゆー奴なんだぜ?」
     気づけばしゃくりあげるほどに涙は大量に溢れて止まらなくなっていた。一番好きな人に、弱い部分すら晒せない弱い自分を、一生認めて欲しい。
     凪が「一緒にいて」という度に「お前が離れたんじゃねぇか」と弱い自分が顔を出す。
    「俺の弱いところは一生気づかないふりしててくれよ……もう二度と、俺から離れようとすんな……」
     真実薬は心の中の声が全部音になって空中に響いた。自白薬というだけあって、もやもやした胸の支えが取れたみたいにスッキリして、いつの間にか眠っていた。
     
     ⌘
     
     どういう状況か──というのは、玲王の瞼の縁にある涙の流れた痕で一目瞭然だった。
     そっか、また一人で泣いちゃったんだ──昨日俺が『あの日』の話をしたからだろう。いつだったか、隣のベットで寝ている玲王が寝ながらしくしくと泣いていたことがあって、俺はそれを玲王に伝えることができなかった。玲王の方がいつも朝起きるのが早いし、玲王は上手く誤魔化せていると思っているけど、実は俺、結構、夜中に目が冴えて起きちゃうことがある。
     玲王がうなされていた時、そばに行って玲王の手を握って見れば「行くな」と寝言で言ったのを聞いたこともある。そのあとすぐくぅくぅ寝息が聞こえたから、絶対寝ているはずだけど。そんなのも全部、玲王には言えてない。
    「レオ……」
     言ったら玲王は、なんだかまた俺と距離を取ってきそうで、言えていない。弱い自分でごめん、と思いつつ、もう二度と玲王を傷つけたくなくて。その原因が俺であることも、自分を許せてなくて。
    「大好きだよ」
     恋人になってから、二人で寝るようになった。一緒に寝ていたはずの玲王がたまに自分の方のベットにいるときは何かあった日なのだろう。前にふと理由を聞いたらはぐらかされてしまったから、気づかれたくないんだろうことは察した。
     普段、泣くなんて想像もできない人を泣かせている事実に酷く落ち込む。それが自分の好きな人なら尚更。どうしたら泣かないで居てくれるかなって、そればかり考えて、出口は見えない。
    「……んー。なぎ?」
     少し腫れぼったい瞼に気づいて、心臓がシクシクと傷んだ。
    「もう朝か? ふぁ……、おはよ」
     おはよ、という玲王の瞼は重そうだった。「そんな寝過ぎてたか」なんて言って、大きな欠伸をした。目を擦って起き上がる玲王の額にキスをした。
    「なんだよ、朝から甘えたか?」
     声の掠れ具合はセックスした後みたいだ。ねぇ、何で声が掠れてるの?
    「……うん、甘やかして」
     ねぇ、なんで一人で泣いちゃうの? 俺はどんな玲王も、玲王だから好きだよ。でも言えないから自分が甘えにいく。
    「しょうがねぇなぁ」
     伏せ目がちで目を合わせたがらないのは、重い瞼を隠すため?
     ぎゅう、と玲王の顔を見ないように抱きしめれば玲王はホッとしたみたいに肩を撫で下ろした。お前から甘えられてみたいけど、きっとないんだろうと思う。
     好きだよ、玲王。お前を好きになって、こんな臆病な自分がいることを知った。お前を傷つけるのが怖いだなんて言ったら、お前はまた傷ついた顔をする?
     なんか、俺の方が泣きそうだ。
    「……なぎ?」
     お前が好きで好きで、たまらないよ。
     めんどくさいことばっかり起こるのに、お前のことを一生離したくなくて、どうしようもないんだよ。
    「俺……、箒蹴球クディッチがんばるね」
     お前がいるから、お前の夢だから、
     だから俺の夢になったし、楽しいんだよ。
    「ああ! そーだな!」
     夢、なんて一度も抱いたことなかったんだよ。
    「レオ……、ずっと一緒にいてね」
     魔法の制約もない口約束がどのくらい効力を持つかなんて知らないけど、俺はずっと御影玲王を追うよ。
      
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    この二人は一話目ですでに付き合っているのでどう足掻いても恋人なのですが、付き合ったの六年生なので、めんroのときは両片思いしてました。
    クディッチの話はここまで詳しく書く予定なかったけど二人の未来のためには書いて良かったかもしれないです。
    MAGIC is LIGHT 【救済編】 一度、玲王を酷く傷つけてしまったことがある。
     そのことを、悔やんでも悔やんでも、ずっと玲王の心には残ったままなのだろう。
     昔を知るチームメイトはことも無さげに言った。
    「お前たちって、一回大喧嘩したことなかった? 全然喋ってなかった時期あったろ」
     うん、とだけ言ってすぐに口を噤んだ。人から『喧嘩』と言われて、「ああ、ああいうのが喧嘩というのか」と思った。だって、生まれて初めての友達が玲王で、喧嘩したのも初めてだった。
     俺は今でも、それを悔やんでいる。
     
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     今年の箒蹴球W杯で、在籍中から活躍する魔法学校生徒の中でも注目すべき選手がいる。まずは、魔法学校一年生から箒蹴球チームにスカウトされ入団している凪誠士郎選手と御影玲王選手だ。この二人の登場はまさに箒蹴球界に超新生ダブルエース現る!! という見出しで日刊予言者新聞を騒がせたことで覚えている読者も多いのではないだろうか。若干十二歳で彗星の如く現れた二人ですが、魔法学校一年生で箒蹴球チームに選ばれるのは数百年に一度逸材、それが一気に二人も!
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