グエルは数多のスペースの前で立ちすくんでいた。
弟のラウダが最近妙に忙しなく、心ここにあらずな様子で心配して事情を聞いてみたところ、なんとオタクのイベント?に参加するという。
副寮長の身でありながらミーティングまで……と感心していたが、どうやら自身が考えていたものとは相当違うらしいと会場に着いてようやく気が付いた。
幕張メッセで機体展示(模型)や株主優待の説明会を経験していたので、てっきりそういうものだと思っていたが、眼前に広がるのは人、人、人……。
展示物は機体ではなく小ぶりのポスターや小冊子。
各会社のディーラーではなく一般人。
一番想像と違っていたのは熱気で、参加者らしい人々の熱にグエルは完全に気圧されていた。
指定された時間に会場に着いたのでラウダに報告したところ、事前に渡されたチケットに書かれた場所に来てくれと返信があったので向かった。
……のだが。
「ス、スレッタ・マーキュリーがどうしてここに……」
ラウダの机ことスペースの二つ隣りに、スレッタ・マーキュリーが座っていた。
なぜ!ここに!いる!?
こちらに気付いたく水星女が目を彷徨わせながらお辞儀をした。
「お、おはようございます……!」
くしゃくしゃ頭が揺れてかわいい……ではなく、スペースに座る者は参加者の中でも販売側(ラウダいわく売っているのではないらしい)の人間なはずだ。
「あ、兄さん!」
グエルに気付いたラウダが、スレッタのチャームポイントの一つである跳ねた毛越しに手を振った。
「聞いてよ兄さん、こいつら逆CP頒布してるんだ。取り締まった方がいいよ」
「地球寮の夢を壊さないで下さいぃ……!」
なんのことか分からないが少し前から言い合っていたらしい。……いいな、ではなく。
「地球寮全員で参加してるのか?」
「はっはい!みんなで……お金出しあって、描いたりして、ます。」
私、売り子してます!と張り切っている様子が朝から眩しい。
「売り子……そういうのが、あるのか……」
「はい…あの、いまミオリネさん達が段ボールを取りに行ってて…だからお留守番、してるんです」
「お、おお……」
「それに、グエルさんをちゃんと描けました」
「は?」
スレッタは地球寮の面子を褒められたと思ったのか顔面スレスレに表紙を突き出した。
動体視力のいいグエルは固まった。
「グエル×ラウダ……?」
他人に一回も見せたことがない部分まで丸出しのグエルとラウダの絵が描かれている本だった。
こんなショットを一度も撮らせたことはない。
「はい!ラウグエです!」
「ふざけるなグエラウだろ水星女!」
「みんなラウグエって言ってました!」
「絶対違う!」
よく分からないが、グエルとラウダの裸に近い絵が描かれ冊子が販売されるらしい。
ラウダのスペースにも似た感じのものが並んでおり、軽く目眩を覚える。
ラウダの頼みだったので二つ返事で返したが、初めて後悔した。ラウダの願いは限りなく叶えてやりたかったが、これはいかがなものか。
兄として、純粋に判断に迷った。
「あー……売れるといいな……」
「勿論!グエラウが正義だよ」
「大丈夫ですっ欲しいって方が沢山いました!」
「ラウグエ反対!」
売れないでくれと願いながら、グエルは用意されたパイプ椅子に座った。
グエラウスペースにまさかのグエル本人が居ることにより、大盛況になることを、当人は微塵も考えてなどいなかった。
ナマモノを本人の前で扱うのは決闘委員会では禁止していないが、オタクイベントとしては危ないのでやめましょうと後日お達しが出た。