ひとひら散りゆく「ふふ、痛い?賢者様。」
オーエンの軽やかな問い掛けに、返す声はなかった。代わりに、静寂に響くのは浅い呼吸だけ。窓がないため外の景色は分からないけれど、此処に連れて来られるまでに見た降り積もる雪は、きっと晶の声すら閉じ込めてしまうだろう。
北の国の、とある小さな隠れ家にて。
晶は自由の効かない身体を横たえて、オーエンを見上げていた。色彩の異なる瞳は、晶の一挙手一投足を逃さぬかのように観察している。人形めいた美貌は常と変わらぬ表情なのに、それを取り巻く環境が異質だ。ベッドとテーブルと、椅子が一つずつ。無機質な壁はやや燻んでいて、頼りなさそうな灯りが揺らめいている。暖炉もあるが、オーエンがそれに火を付ける様子はない。背中から伝わる冷気にふるりと身を震わせると、部屋にまた哄笑が響いた。
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