16 アル空と鍾魈青い草原の広がる洞天の中で、桜の木を植えたからお花見しようと空が誘ったのは、魈と鍾離、そしてアルベドだった。
稲妻の城下を歩いていた時に舞い散る薄桃色の花弁が美しく、いつでものんびり観たいなと思っていた矢先にマルが用意してくれたため、迷わずコインと樹木を引き換えのだ。
雨の降らない洞天の中は気温も安定していて過ごしやすい。パイモンが「お花見するなら団子がいるよな!」と瞳を輝かせたために、稲妻の土産と称した三色団子も買ってきている。鍾離は茶を用意してくれて、魈は望舒旅館のオーナーから預かったという菓子を取り出し、アルベドはつまみもあるといいのではとガイアに勧められた、モンド風焼き魚を持ち寄った。
持ってきた料理のほとんどを食べきったパイモンは、満腹になったせいかそのまますよすよ寝息を立て始めてしまった。花より団子を体現するパイモンに、期待を裏切らないなあと空は苦笑をこぼす。
ふと隣を見るとアルベドがスケッチ道具を取り出している。桜を描くの?と問えば、頷いて返される。
「ここから退いた方がいいか?」
気づいた鍾離が腰を浮かそうとすると、アルベドは首を振って「そのままでいい」と静止する。
「君たちが良ければ、桜と一緒に描いてもいいかい?」
「俺は構わないが……魈はそれでもいいか?」
「鍾離様がよろしければ我は問題ありません」
「魈、相変わらずだねぇ……」
一切の冗談も含まず返す魈に空がぬるい視線を送ると、放っておけと顔を逸らされる。
「それなら笑ってる顔がいいんじゃない? そんな真面目な顔じゃなくてさ」
「笑う……? 笑うような出来事もないのに?」
「うーんと、そんな大袈裟に笑うとかじゃなくていいんだけど。今のままだと表情硬く見えるし」
「我はこれでいつも通りだが?」
問題あるのか、と聞かれれば、別に問題と言うほどではないかなと頬を掻くしかない。こちらが笑ってと言って笑うような性格ではないのは、考えるまでもないことだった。
でもせっかくアルベドに一枚描いてもらうなら、笑顔がいいのになとは勝手に思ってしまう。けれど強制出来るわけでもないし……と空がじっと魈を見つめていると、鍾離が魈の頭をぽんぽん撫でた。
「……鍾離様?」
「そう難しく考えなくていい。少し肩の力を抜く程度でいいから」
「ですが……」
「そうだね。それに、ずっと同じポーズでいなくても構わない。普段のように会話して、お茶を飲んでくれてもいい。先までの時間で、自然体の君たちと美しい桜がとても似合うと思ったし、ボクはその一枚を描きたいんだ」
鍾離とアルベドから言われ、空には微笑まれ、魈はしばし目を泳がせてから、やや姿勢を崩して観念したように茶を啜った。
「……我らより、空を描けばいいのでは」
呟く魈に、それなら、とアルベドは画用紙の中に構図を浮かべて、横目でちらと空を捉えた。
「もちろん、君たちの後に描くつもりだよ。眠るパイモンも一緒にね」