17 鍾魈鍾離様からいただいたものは、それがどんなものであっても大切に保管しておく。
璃月で採れた草花は枯れてしまわぬよう、押花にしてしおりに変えた。
鉱石は当初そのまま保管していたが、常に身につけられるよう控えめな装飾品に変えた。
食品は長期間の保存が難しいために、勿体ないと思いながら自分の血肉に変えた。
そうしていると鍾離様ご自身が近くに居らずとも、なんとなく側に在るような気がして、落ち着くような気恥ずかしいような、異なる性質の感情が胸中で混ざり合う。
貰ってばかりでは申し訳なくて、こちらからもお返しをしようと、清心を集め束にしたり、料理の材料になるものを拾ったりすることもあった。
鍾離様は喜んで受け取って下さる。喜んで、というのはあくまでも、そのように見えるというのであって実際のところはわからない。
目に映る鍾離様の表情が、果たして本物であるかどうか……我に対して向けられる笑みはその実、感情など乗ってはいないのではないかと、信じきれないこともあった。
それは単に、我にそこまでの価値がないからであると思ってのことだった。鍾離様の問題ではない。受け取る自分自身の評価が低いが故に抱いてしまうものだった。
そのことを打ち明けたことがあった。お返しにと、質の高い石珀をお渡しした時に向けられた微笑が美しく、見た瞬間に苦しくなって目を背けた時に、どうしてそんな顔をするのかと問われて。
問いには、答えを差し出さなければならない。
包み隠さず伝えると鍾離様は
「それは、俺のことも信じていないのと同義だぞ?」
……そう、仰られた。
そのようなつもりはないのだと、鍾離様のことは信じておりますと必死になった。言葉の選び方を間違えたのだろうか。誤って伝わってしまったのなら紐解かなければと焦っていると、宥めるようにして頭を撫でられる。
「俺が信じるお前を、お前が信じていないのだろう?」
「……――」
「責めている訳ではない。ただ、俺に信頼を向けるなら、その分お前自身にも同等の信頼を向けて欲しいだけだ。お前の武力は確かなもので、俺もずっと助けられてきた。だが、お前の持つものはそれだけではない。……こうして美しい石珀を贈ってくれるお前の心ごと、俺は心底信じているのだから」
その日の鍾離様は普段より饒舌に、我の長所に関して日が暮れるまでたっぷりと話してくださった。
長所、などとは微塵も思っていないことまで取り上げられて、そんなはずはないと否定しようとすると指先で口元を塞がれてしまう。そうなるともうすべてを聞き入れるほかになく、黙ったままで、鍾離様の声に耳を傾けていた。
――かたちのないものが、あふれていく。
この声を、言葉を、そのまま箱の中に仕舞えたらいいのに。そしたらずっと残り続けるし、いつでも取り出して、何度だって確かめられるのに。
稀代の錬金術師ならば、なにか妙案でも思いついてくれるだろうか。無意味なことと知りながらそれでも縋りたくなる思いを、沈む太陽の中に溶かしていった。