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    namo_kabe_sysy

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    800文字(前後)チャレンジ
    34
    鍾魈 先生の髪がばっさり切られちゃう話。

    #鍾魈
    Zhongxiao
    ##800文字(前後)チャレンジ

    34 鍾魈囲んできた魔物は全て大したことはなかった。一体が持つ能力は高が知れている。ただ、群れを成しているため処理に時間がかかっていた。
    それでも、容易い。この程度なんの問題もない。
    魈は身体と一体となった槍を躊躇なく魔物に突き刺していく。空や鍾離も各自応戦し、残るは数体となった時。
    「先生っ、後ろ!」
    悲鳴じみた空の声が響き渡る。シールドは全員に張られていたが、数秒前に効果が切れている。魈は舌打ちして振り返ると、腰まで揺らしていた鍾離の髪が肩の高さで刻まれて、はらはら宙を舞っているのを目にした。

    「大した敵ではないと思っていたが、まさかあのように背後を取られるとはな。少々油断していたか」
    目的であった素材の収集も終わり、心配そうな空と別れた鍾離と魈は洞天の中にいた。愛用の茶器で淹れた鍾離特選の茶を飲みながら、魈な苦々しい顔をする。
    「……申し訳ありません。我がもっと迅速に処理をしていれば……」
    「お前が責任を感じることはない。今回はやけに数が多かったからな。時間を要するのも仕方がなかった」
    なんでもないように流す鍾離だったが、魈はすぐ納得はできずに、膝上で拳を握り込んだ。
    一つに結われていた鍾離の髪は、肩口で切り揃えられている。魔物に切られた直後は斜めに不揃いだったものを、空がなるべく綺麗に見えるようにと整えた後だった。日中、横から見る鍾離の顔は輪郭まで見えることが殆どだが、今はまとめられない分の髪が邪魔をして、あまり表情が見えなかった。
    「皆が怪我もなく無事に済んだ。それに素材も入手できたし、十分な戦績だろう」
    「ですが鍾離様の御髪が……」
    「ん? ああ、まあそのうち伸びるだろう。これはこれで軽くなっていいかもしれん」
    「……それは、そうかも、しれませんが」
    途切れる言葉に、鍾離はわずかため息をついて「魈」と呼ぶ。顔をあげてみると、こちらへおいでと招かれている。
    椅子から離れ、鍾離の側に立つ。すると鍾離は佇んだ魈を膝上に乗せて、あやすように横抱きにした。
    「そんな顔をするな。それとも、この長さは似合っていないか?」
    「そのようなことは!」
    「ははっ、なら良かった。……とにかく、誰も傷ついていないんだ。魈、自分を責めるのはこれで終わりだ。わかったな?」
    「――……、…………」
    「沈黙は肯定と受け取るぞ?」
    鍾離が首を傾げると、伴って短くなった髪までさらりと揺れる。艶やかな深いブラウンのそれは、見慣れているはずなのにやはりどこか違和感を連れてくる。
    魈はそっと、鍾離の肩口にある毛先へと触れる。切り揃えられた先端を持ち上げて、そのまま唇を寄せた。
    「……魈?」
    「あなたが大した事ではないと仰っても、我にとってはこの髪の一本ですら大切なのです。……鍾離様を象るものすべて、失くして欲しくはないと……傲慢と受け取られるかもしれませんが、どうしても」
    申し訳ありません、と小さくなった声音を震わせ、魈はそのまま鍾離の胸元に額をすり寄せる。
    怪我もなく無事でいたことは確かに結果としては良かったのだろう。空も含めて各々が適切な対処ができたのだ、得られた成果としてはそれなりの評価をしても良い。
    ただ、大切に思うものが失くなってしまった事実は変わらない。
    本人が気にせずにいても、魈からすると軽んじる理由はどこにもなかった。
    ゆるやかに、背中を撫でられる。抱き寄せられるような形で鍾離にぴたりと密着する魈は、今更ながらに自身の体勢が甘え切った子供のようであると自覚して、慌てた声を出した。
    「も、申し訳ありません……! す、すぐに離れます、」
    「何故? そのままでいい。……まったく、本当にお前には恐れ入る」
    「……?」
    「そうだな。俺もお前の何かが失われたら、黙っていられないかもしれない。鮮やかな髪の一本も、失わせたくはない。……お前をお前のままで守っていたいと、そう思う」
    鍾離の二本の腕が、魈の身体をゆるく縛る。背中にあった手は静かに魈の後頭部へと移り、深緑の柔らかな髪を撫で始める。
    鍾離によって動きを制されてしまった魈は、緊張のような、恐れのような、喜びのような色を混ぜた心臓を宥める手段を模索しながら、あたたかな胸に身を委ねる。
    同じ言葉を向けられたことが嬉しい。ただそれを素直に表に出すのは憚られて、魈は何も言えないまま、緩みそうになる唇をきゅっと締めるのだった。
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