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    namo_kabe_sysy

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    800文字(前後)チャレンジ
    49
    鍾魈 魈くんお誕生日おめでとうの話。モブ少女が喋ります。

    #鍾魈
    Zhongxiao
    ##800文字(前後)チャレンジ

    49 鍾魈「しょうりせんせい! こんにちは!」
    「おや、お嬢さんは……」
    「もう! 急に走り出して……母さんの側から離れちゃだめでしょ? ごめんなさいねぇ、鍾離さん」
    鍾離の元に元気よく走ってきたのは、髪をふたつに結った少女だった。遅れて駆けつけたのは彼女の母親で、肩で息をしながら「もう離れたらだめよ」と少女の片手を握った。
    璃月港を出て望舒旅館に赴く直前に声を掛けられた鍾離は、膝を曲げて少女の目線にまで落とす。「何かあったのか?」と訊ねると、少女は何度も首を縦に振り、斜めがけにしていた麻の小さな鞄に手を入れて「これ!」とあるものを引っ張り出した。
    それは薄紅色の包みで覆われて、黄色の紐で留められている。大きさは少女の両手に乗るほどのサイズで、風が吹くと蝶々結びにされた紐がふわりと揺れていた。
    「これは……?」
    「緑のお兄ちゃんにプレゼントしたいの!」
    「緑のお兄ちゃん……?」
    「とても綺麗な見目の、仙人様のことかと……」
    以前、私たちを助けてくださったんです、と母親が補足する。なるほど確かに髪色で覚えるならそうなるかと合点がいった鍾離に、少女は笑みを絶やさないまま問いかけた。
    「しょうりせんせい、これからお兄ちゃんに会いにいくよね?」
    「なぜ知っているんだ?」
    「さっき香菱お姉ちゃんに聞いたの! 杏仁豆腐をおみやげにしてるから、仙人様に会いに行くとおもうって。緑のお兄ちゃんのことでしょ? これ、わたしてくれないかな?」
    「それは構わないが……」
    答えつつ、少女から包みを受け取る。
    確かに今日は魈に会いにいく予定だった。それは彼が誕生日を迎えたからという理由だ。手土産の杏仁豆腐も、色々と考えた結果、彼の口にいちばん合いそうなものに絞った結果だった。
    他には旅人に手料理を振る舞ってもらうか、もしくは自分で何か作ろうかと考えてはいたものの、旅人は冒険者協会の依頼で忙しく、鍾離も往生堂で堂主に付き添う必要があり、時間の捻出ができずにいた。
    そこで香菱に頼んで、杏仁豆腐を二人分作り置いてもらった。すでに魈と顔見知りになっている香菱は、鍾離がよく彼といることを知っているために「もしかして仙人様のところに?」と興味本位で尋ねると、鍾離がひとつ頷いたため、「それならお好みの味に調整しておくね!」と腕を振るってくれた。
    「あのね、今日ね、緑のお兄ちゃん誕生日なんだって! これは私からお兄ちゃんにプレゼントなんだ。お誕生日おめでとうって伝えてほしいの。すごいんだよ、お兄ちゃんと私、誕生日がおんなじなの!」
    「そうだったのか……ならばお嬢さんも、今日ひとつ歳を重ねたんだな」
    「うん、七歳になったよ!」
    大人になるまでもうすぐかなあと少女がふくふく笑っていると、鍾離も頬を緩ませる。そこに少女の母親が申し訳なさそうに「ごめんなさいね」と詫びを入れた。
    「すみません鍾離さん、ご無理を言って。助けてもらったあと、仙人様が去る間際、誕生日はいつなのかって聞いてから、プレゼントするってきかなくて……」
    初めて会う人に誕生日をきくのが癖みたいで、と苦笑する母親に、確かにそういったことを質問する人間はいるからな、と相槌を打つ。
    「そうだったのか。なに、謝ることはない。彼も可愛らしいお嬢さんと同じ誕生日だと知れば喜ぶだろうしな」
    立ち上がってから鍾離は、少女に預けられた包みを大切に抱えて「これは必ず彼に届けておく」と言い置き、璃月港を後にした。

    望舒旅館の最上階。
    扉をノックする前に、室内に繋がる板を内側から開かれた。
    「鍾離様。……こちらまでお越しいただき、申し訳ございません」
    顔を合わせて数秒で謝罪を述べられ、鍾離は短く息を吐き「顔をあげてくれ」と魈に近づいた。
    「そもそも今日の約束は俺が取り付けたものだ。この時間、この部屋にいてほしいと言ったのは俺で、お前はそれを守ってくれた。謝る必要がどこにある?」
    「それは……そうかもしれませんが、わざわざ足を運んでいただいたのは確かですし」
    「ここまでの距離など大したことはない。好きな散歩と思えばなんでもないし、なにより、お前に会いにきたいからここまで来ている。そんなにかしこまらないでくれ」
    魈のつむじに唇を押し当てて、鍾魈は魈を伴って室内に入った。後ろ手で扉を閉めてふと隣の美しい仙人に目線を落とすと、白いまろやかな頬を熟したりんごの赤色に染めている。ぱちぱち何度も瞬きを繰り返し、唇をわななかせているところから推察するに、先程予告なしに接吻をはかったことが効いているらしい。
    「しょうりさま、は、いつも急に、しすぎ、です」
    「ふむ。どんなことについて言っている?」
    「そっ、それは! ……先程されたようなこと、とか」
    「俺は何をした? 具体的に?」
    「――……っ」
    「ははっ、すまない。そう可愛い顔で怒らないでくれ。ひとまず茶を淹れよう。香菱殿に頼んだ杏仁豆腐を持ってきた。それと、お前宛の贈り物を預かっている」
    「我宛の……?」
    一体誰が、と該当する人物の目星がつかないのか眉根を寄せる魈に、鍾離は気に入りの茶を淹れつつ、璃月港で別れた少女と母親のことを話した。
    「以前、お前に助けられたお嬢さんからだよ。誕生日を尋ねてきた少女に覚えはあるか?」
    湯気の立つ茶器をテーブルに並べ、杏仁豆腐を取り出と、スプーンも二人分しっかり添えられていた。細やかな部分まで丁寧な仕事をする香菱を思い、鍾離はふと目を細める。
    丸テーブルに魈と隣り合うように座ってから、鍾離は預かっていた包みを手渡した。手にあった軽量な重みは魈に移って、鍾離の手のひらはふっと空気に触れる。
    「記憶にありますが……まさか我の回答を今日まで覚えられているとは思いませんでした」
    「おそらくお前のことがずっと記憶に焼き付いていたのだろうな。共通項として、お嬢さん自身も今日が誕生日と言っていた。お前と同じ日に生まれたことが嬉しかったのだろう」
    「……そう、ですか」
    不思議な人間もいるのですね、と包みを眺める魈に、開けてみたらどうだ、と鍾離は視線を流す。魈はそれを受けて、結ばれていた紐をそっと解いた。
    薄紅色の包みを開いていくと、魈の片手に収まる四角い箱が顔を覗かせる。真白の蓋をぱくりと外すと、中には石珀の欠片が、やわらかな布の上に飾られていた。
    よく見ると石珀と布の間に、一枚の紙が挟んである。四つ折りにされたそれを広げると、若葉色のインクがメッセージを刻んでいた。
    『お兄ちゃんへ
    おたんじょうび、おめでとう! 私もお兄ちゃんとおんなじ日に生まれました。今日で七歳になります。お兄ちゃんは、ことしで何歳になりましたか? こんど璃月で会えたら、おしえてほしいです。
    プレゼントは、私の宝ものにしている石はくです。お兄ちゃんのひとみがとってもキレイだったから、いちばんキレイな石をえらびました。
    石はくは、岩のこころとも言われていて、お守りにして持っていると、岩王帝君が守ってくれるそうです。
    これからも、お兄ちゃんに、岩王帝君のご加護がありますように!』
    一読してから、魈はメモと石珀を交互に見比べる。
    このように人間から贈り物を貰う経験はなかった。ましてや誕生日の祝いをされることもなかった。かつて共に璃月を守護していた仙人たちとは言葉を送りあうこともあったが、いまでは命日に過去を振り返り、彼らを偲ぶことの方が多くなっていた。
    生きることは魈にとって義務であり、契約であり、償いだった。生誕の日を祝っていたかつての場面を掘り返すのは、失った過去にもう一度触れるのと似ている。
    「……人間は、誕生日というものを、ここまで素直に喜ぶのですね。しかも他人の……我など、ただの一度会っただけというのに」
    メモをたたんでから布上に戻し、石珀の欠片を取り出して、箱をテーブルに置く。手のひらで転がる石は差し込まれる光できらりと輝いた。
    隣で静かに様子を見守っていた鍾離が、「そうだな」と魈の頭を優しく撫でる。
    「ただ一度会っただけでもお前に加護があるよう祈るほど、彼女にとってお前は、大切な存在だということだ」
    「我はすべきことをしたまでです。大袈裟に捉えすぎなのでは?」
    光の加減で表情を変える石珀は、血濡れた手には馴染まないと魈は俯瞰していた。自分の元に届いた石を、哀れとすら思う。
    贈り主の少女にとってこの石珀は宝だと言う。元素の力を感じるに、この欠片はそれなりの質であると伺えた。純度の高い晶石は他にもあるが、鉱夫でもない人間がより高品質なものを得るのは難しい。それはつまり、この石を手放せば、類似した質の石を少女が今後簡単に入手することは、しばらく無理だろうということだ。
    だからこそ、ここまで安易に他人に手渡してしまえる心情が、魈には理解できなかった。
    「その大小を測るのはお前ではなく彼女の方だ。そして彼女が導き出した結論が、今お前の手の中にある」
    石珀がのせられた手に、鍾離の手が重なる。とくり、心臓が跳ねて、魈はおずおずと鍾離の方を見上げた。
    「鍾離様……?」
    「この欠片は、大切にとっておくといい。そうだ、今度保管用のケースを買ってこよう。飾るなら枠に意匠があるといいかもしれないな」
    店の見当はついているからと笑う鍾離は、魈の手指の間に自らの長い指を挟み込む。石珀ごと魈の手指を優しく握り、肩を抱き寄せて、鍾離は言葉の続きを編んだ。
    「そもそも俺たちは人間よりもずっと長い時間を生きているし、誕生日を迎えてもいつもと変わらない日を過ごすことも多かった。だから不慣れなことは恥ずべきことでもなんでもない。何故ここまで? と、疑問に思うのも当然のことだろう。しかし、人間は違う。俺たちよりもずっと儚い時間を懸命に生きている。一日や一年の重みも比べものにならないだろう。だからこそ、歳を重ねる日まで続いた日々を祝うんだ。今日まで命が続いたことを喜ぶんだよ」
    「……――」
    「だがお前にとっては、生きることが枷になっていることがあるかもしれない。それは俺がお前と結んだかつての契約によるものだろうと推し量ることはできているつもりだ。……それでも、お前がいまこうしてここにいて、ぬくもりを分けてくれることを、俺も感謝せずにはいられないんだ。……だから、彼女と同じく、俺にも言わせてほしい」

    ――誕生日、おめでとう。魈。

    杏仁豆腐以外の贈り物は結局決められなかったのだと打ち明ける鍾離に、魈はそっと首を振った。ただあなたが側にいてくださるだけで充分なのだと、胸の内を熱くする。
    それから魈は、包まれた手のひら、その中にある加護の宿る石をもやわく握り返す。
    まつ毛に縁取られた琥珀を揺らし、はにかみながら「ありがとうございます」と唇を震わせると、愛おしそうに頬を緩めた鍾離が、その唇に口づけをひとつ、落とすのだった。
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