Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    namo_kabe_sysy

    @namo_kabe_sysy

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 🌻 ⛅ 🔶 💚
    POIPOI 132

    namo_kabe_sysy

    ☆quiet follow

    お題「向日葵」
    アル空前提、くれーちゃんいたりしてほのぼの仕上がりです。

    #アル空
    nullAndVoid
    ##アルベドワンドロワンライ

    花の名前モンドでの依頼をこなした後、城下の正門近くでフローラに呼び止められた。パイモンが先にふわりと近づくと、彼女の両手でも余るような小さな袋が一つ、空に差し出される。
    「これはなんだ?」
    鼻先を近づけてくんくんと匂いを嗅ぐパイモンが怪訝そうな顔をしていると、「食べ物じゃないよ」とフローラはおかしそうに笑う。
    「この間仕入れた種なの。向日葵っていう花が咲くんだ」
    「ひまわり?」
    「どんな花なんだ?」
    空とパイモンがそれぞれに首を傾げていると、フローラの客らしいモンドの住民がプランターに近づいた。イグサを観察するように眺めた後で、フローラに視線を送ってくる。購入の意思を示すものだろう。気づいたフローラはすぐ客に駆け寄ろうとして、空とパイモンを振り返る。
    「育ててみたらわかるよ! みていると元気になるような、すごく明るい花だから!」

    もらった種を携えて、空とパイモンは洞天に潜った。マルに挨拶をしてから、いくつかある庭のうち、花や野菜を育てる園芸広場へと足を向ける。
    噴水の近くにある畑はなだらかに耕されていて、現在はセシリアの花とダイコン、水田の方にはキンギョソウが時折吹く風で葉を踊らせていた。すでに収穫できる段階にあったため、空は先に土から伸びた花と埋まっているダイコンを引き抜くと、ぽかりと空いた穴を埋めて土で均し、種を埋めるための準備を整える。
    手のひらについた土を軽く払った後、フローラから渡された袋を開く。入っていた種は黒を基本とし、白線が何本か入ったやや細長いものだった。パイモンがしたように空も鼻先をくんくんと動かすが、これといった匂いはしなかった。
    「なんだよ空〜オイラの真似して、食べられると思ったのか?」
    「そうじゃないけど。……でもパイモンなら食べても大丈夫なんじゃない?」
    何かあった時のために非常食として少し残しておこうか、と口角を上げると「絶対からかってるだろ!」と、パイモンは空中でジタバタと憤慨してみせた。非常食、というワードも聞き捨てならなかったのかもしれない。わかっていて口にした空は思った通りの反応を返してくれた妖精に「ごめんてば」とおざなりに謝ると、畑の花に種を一粒ずつ植えていった。
    種を土のベッドに寝かせた後で、ジョウロの中に水を汲む。噴水を近くに設置したのはこうして水やりを少しでも楽にするためだ。各エリアにワープポイントはあるものの、水汲みのために移動するのも非効率だろうと雪山に拠点をもつ錬金術師からのアドバイスだった。そういえば最近顔を合わせていないなあと思いつつ、光を反射してキラキラしている水面を破くように空がジョウロを突っ込むと、溌剌とした声が風に乗って届いた。
    「パイモンちゃーーん! 栄誉騎士のお兄ちゃーーん!」
    たっぷりと水を入れたジョウロを引き上げて、声の発信元へと目を凝らすと、
    「やあ、空にパイモン。今日は収穫のために来たのかい?」
    穏やかに笑うアルベドと、元気いっぱいに駆けてくるクレーの姿がそこにはあった。

    「なるほど、種を植えていたのか」
    収穫が終わってなだらかになった土を眺めていたアルベドが、ことの経緯を聞いた後に呟く。空がしようとしていた水やりも買って出て、ジョウロからシャワーを浴びせるように畑に雨を降らせていた。俺がやるからいいのにと躊躇った空に、せっかくだから一緒に育てた感覚が欲しいのだと翡翠色は照れもせずに述べる。久しぶりに会って、久しぶりに言葉を交わすだけでも、空としては緊張の芽が出るものだが、アルベドの方はそういった気配はまるで見せない。どこまでも不公平だなあと思いながらも嫌悪は一切滲まないのだから、この感情は本当に厄介だなと苦笑して返していた。
    畑全体にアルベドが水をやっていると、パイモンの隣にいたクレーが「ひまわりってどんなお花?」と小首を傾げて問うてくる。
    「それがオイラたちにもわからないんだ。フローラは、みてると元気になるような明るい花だって言ってたけど」
    「俺たちも見たことがなくて。……アルベドは聞いたことある?」
    「残念ながら。けれどフローラが渡したものだし、そうおかしなものではないと思うよ。彼女の言葉通りの花が咲くんじゃないかな?」
    噴水から汲んだ水がなくなり、軽くなったジョウロを受け取ると「そっかぁ」と空は短く息をつく。
    「やっぱり咲いてからのお楽しみだね。いつもだと三日もあれば咲くけど……」
    これはどのくらいかかるかな、と視線を畑に戻すと、種を植えた場所にはすでに小さな芽がぷくりと土から顔を出していた。
    見間違いだろうかと思い目を擦ってからもう一度同じ場所を注視する。と、やはり緑色の芽が存在している上に、小さかったそれはぐんぐん背丈を高くしていく。みずみずしい緑の葉を増やし、唖然としている空たちを楽しそうに見下ろすような長さまで伸びていくと、天辺にあった大きな蕾が洞天の擬似的な太陽の方を向き、内側から外側へ、ゆっくりと瞳を開くように黄色の花弁を惜しげもなく披露してみせた。
    植えた種は全部で四つ。その四つ全てが花開き、なんでそんなに惚けた顔をしているのと、笑うように揺れている。
    目を見開いたまま茫然としていた空だったが、隣のアルベドが何か仕掛けを施したのではないかと思い至って視線を投げるも、ボクではないよと首を振られて終わってしまう。ジョウロで水やりをしたときにこっそり、と思ったのだがそうではないらしい。アルベドも、キミではないのかい? と言いたげに目を合わせてくるがそんな芸当ができる能力は持ち合わせていない。空も首を横に振って返すと、咲き誇った向日葵をそろりと見上げた。
    こんなに急成長する花の育成はこれまで見たことがない。喜びよりも先に、驚きと困惑の色が空の感情を彩る。陽の光を受け、天に向かって伸びをしているような立派な花は、確かに明るく、元気になりそうな姿をしているけど――
    驚きで何も言えずいると、少しだけ沈黙を落としていたクレーがルビー色の瞳に星を輝かせ、「すごい! すごーーい!」とはしゃぎ始めた。その高揚感は空にも伝わってきて、固まっていた体がほどけていく。
    「パイモンちゃん、見てた!? すごいね、このお花! 一気にぐわーって大きくなったよ!」
    「お、おう! オイラもちゃんと見てたぞ! すごかったな!」
    パイモンがクレーに応じるようにして何度も頷くと、空とアルベドの方へもクレーは笑顔を振りまいた。
    「アルベドお兄ちゃん、栄誉騎士のお兄ちゃん! これがひまわりなんだね! クレー、初めて見た!」
    身の丈に近いリュックを背負ったクレーが興奮気味に飛び跳ねる。パイモンよりは大きくても空より小さな彼女はジャンプをしても花の場所には届かないが、大輪の花はそんなクレーの様子を楽しむようにゆらゆら左右に踊っていた。
    誰よりも花の成長を喜ぶ少女を見ていると、自分の喜びも一緒に咲かせてくれているような気がしてくる。無邪気に笑っているクレーに口元を緩ませていると、アルベドが空の肩を軽く叩いた。
    「アルベド?」
    「もしよければ、今この景色を絵にしたいのだけど」
    「もちろんいいよ。あ、それじゃあ俺は退いてるから」
    「いや、キミも一緒に。クレー、それからパイモンも、こちらに来てくれ」
    声をかけたアルベドの元に、パイモンとクレーが小さく疑問符を浮かべつつやってくる。三人が寄り集まったところで、アルベドが短く「擬似陽華」と、唇を震わせ詠唱すると、空とクレーの立つ地面の上に岩の花が錬成され、淀みなく天に向かって登っていった。それはちょうど花の位置まで到達したところでピタリと止まる。
    地上から空たちを見上げるアルベドは一人楽しそうに微笑みながら「そこで少し寛いでいて」と、スケッチの道具を取り出し、さらさらとペン先を滑らせていく。「絵にしたい」という言葉の通りの時間になるな、と感じとった空は、これはしばらくかかりそうだなぁと息をこぼして、クレーを抱き上げ、岩の花へ腰掛けることにした。
    「栄誉騎士のお兄ちゃん?」
    「この花と、多分俺たちを絵にしたいみたいだから。ここで少し待てる?」
    パイモンも、と斜め上に浮いている相棒に目配せをすれば「もちろんいいぞ!」と空のそばまで降りてきて、くっつくように小さな手のひらを肩に乗せてきた。
    腕の中に抱えたクレーのぬくもりと、パイモンの僅かな体温が静かに伝わってくる。心地よい陽気もあって微睡んでしまいそうだけれど、彼の手が絵を完成させるまでは待っていようとあくびを噛み殺した。
    ふ、と隣に視線を向ければ咲いたばかりの向日葵がゆらめいている。フローラが教えたような、明るく元気になるような黄色を広げた不思議な花だ。どことなく太陽を彷彿とさせる翳りを見せないその花に、落ち込んだ時に見上げたら気持ちが上向きそうだなと、空は自然と目尻を下げた。
    視線を落とせば、真剣な瞳を向けているのに嬉しそうな色もしっかりと頬上に乗せた大切な人が、魔法のようにスケッチブックに線を描いている。時折気にかけるような微笑を口元に刻んでこちらを見たかと思うと、それを拾ったのはクレーやパイモンも同時で、空が応えるより早く手を振ったり声をかけたりしていた。
    「……うん。これは確かに、元気になれる景色だ」
    アルベドの声は空の耳には届いたが、パイモンとクレーはおしゃべりに夢中で気づかなかったらしい。彼にとってそう映るなら悪くないなと、空はぶら下げた足のつま先を、ほんの少しだけ遊ばせていた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ☺🌻💞💖
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works