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    soseki1_1

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    soseki1_1

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    🧪に🤕のことを相談する🔮(🤕ハンター化傭占)

    「……これが私の夢でないとするなら、この世界は存在している」
     言いながら、声と成したその言葉が胸に突き刺さるのを自覚する。見えない切っ先が肉を通り抜け、肉を割き、深く、奥深くまで沈み込む。感情の痛みは酷く、イライは一度唇を噛みしめ、痛みを堪えなければならなかった。
    「……つまり、これが夢想でないとするなら、この世界にある彼というのは、彼の可能性のひとつでもあると…そう思うんだ。かつての彼が持っていた未来のひとつ。彼が選ばなかった道の果てにあるもの…」
     瞼の裏に若草色が思い出される。見慣れた、小さいというのに大きな背姿。その腰にはいつもグルカナイフが下げられている。あのナイフを振るった日々は、無論あったのだろう。ナイフを整備する姿だって見たことがある。あれは慣れている者の手つきだ。日々、そうしなければ生きていけなかった者の……そういった道を選んだ者の様。
     あの姿を見詰めながら、イライはいつも言い知れぬ感情で胸を満たしていた。寂しいとも苦しいとも言い難い感情。酷い感情だ。そしてもっとひどいのは、今、同じような心を抱いてしまっていること。
    「だとすると、それは彼の一部だ。なら……私は…それも知りたいと思う。ハンターとして生きる彼のことも、ちゃんと知り得たいと…そう思ってしまう」
     言って、イライは今一度音もなく息を吐く。緩慢と、怯えるように顔を上げ、眼前を見た。ルキノは変わらない表情でイライを見ている。その手にある葡萄酒を傾け、難なく喉に通す。イライは微笑もうとした。頬は上手く持ち上がらず、下手な笑みが口元に浮かぶのを自覚できる。対して、相も変わらず微笑みのような面持ちを浮かべるルキノは、やはり有難い存在に違いなかった。
    「……可笑しいだろう」
    「おかしい、というよりも生き辛いと言った方が最適だ」
     ルキノはそう言って、グラスをテーブルに戻す。頬を手に宛がい、肘を机について、今度は正しくイライへと微笑み返した。
    「だがまあ、君は強欲だからね。仕方ないだろう」
    「はは……そう見えますか」
    「君ほど熱情的な男を私は知らないよ」
     言いながら微笑み続けるルキノは、自分が知る彼自身と然程の相違もないのだろうとイライは直感した。それは恐らくルキノもそうだ。親愛と言うには浅く、顔見知りというには深い間柄が、この世界でも生じているのだろう。イライは草臥れた笑みを僅かに柔らかくさせて、息を吐く。ルキノと話すのは楽だ。互いにそれとなく理解しつつ踏み込み過ぎない。その近くなく、ほんの少し遠い絶妙な距離がいつも有り難かった。
    「恐縮です」
    「褒めてはいないが、まあいだろう」
     ルキノは徐に手を差し伸ばす。イライの方へ向かった指先は、その眼前に置かれたトレーへ。もっと言えば、トレーの中にあるサラダへと向かった。ふたつの指先が小皿の中にある花を摘み上げる。赤く色付いた薄い花弁を嫋やかに広げる花だ。名をビオラと言ったろうか。摘むだけで痕がつきそうなその花を、ルキノは齧るように口元に運んで、笑うような顔をして見せる。
    「それに、恋とは可笑しくなるものだ」
     "君"も、そうなんだろう?
     歯に齧られた花弁が唇に挟まれ、押し潰されていく。草臥れた赤色を舌が絡め取って、器用に口内へと引き摺り込み、跡形もなく食い尽くす。花の末路を見つめながら、イライは息を吐きながら微笑んで、置き去りにしていたグラスを持った。薄くも鮮烈な赤を飲み込んだ胸裡は未だ重いまま、しかし不快感だけは漸くどこかへ消え去っていた。
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    soseki1_1

    DOODLEナワーブ🤕と喧嘩して家出したイライ🔮を匿うノートン🧲/現パロ大占傭占
     火種って簡単に点くんだなって思った。鼻の先にある、灰色の間からちらちら覗く赤色は綺麗で、心臓みたいだなんて見たことのないものの想像をした。ただ咥えてるだけなのに口の中に煙が溜まるのが不思議だった。吐き出してばかりいたそれを思い切って吸い込んだとき、喉が焼けるような不快感に襲われて咳き込んだ。そこからはもうてんで駄目で、ただ口内に煙を溜めておくだけで僕は咳をするようになった。向いてない。明らかに分かる事実が悔しくて、認めたくなくて、僕は咳をしながら煙草をふかし続けた。
     ひたすら歩いて歩いて歩いた先にあった見慣れたコンビニでそれは買えた。ライターだって簡単に買えた。レジの隣に置いてあった。「煙草を」と言った僕に気怠げな店員は「何番ですかぁ」と草臥れた問いかけをして、僕は、淀み無く番号を言った。彼がたった一度だけ僕の前で言った煙草の銘柄を僕は馬鹿みたいに覚えていて、彼が言わなかった番号まで調べて覚えていた。言うつもりはなかったのに、その番号が口からついて出た。悔しかった。その番号以外知ってるものなんてなくて、店員はスムーズに立ち並んでる箱達からたったひとつを取り出していて、僕は撤回する機会を失った。
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    soseki1_1

    DOODLE本丸傭占奇譚
    「好きな奴が出来たんだと思う」
     言われたとき、なんのことだかさっぱり解らなかった。
    「主」
     そう続けられた言葉でようやく言葉の真意を理解できた。正しくは、広げていた雑誌を読めも見もできず何秒か握りしめ、畳んで、発言した加州清光の方を見て、数秒経ってようやく理解できた。皴のついたページは恋愛特集だった。時の政府が発行している月刊雑誌の中でも恋物語を中心に集めた一冊だ。毎月本丸の、自分の部屋に届くようにしてある雑誌を一文字則宗は横に置く。
    「まじか」
    「たぶんマジ」
     普段使わない一昔前の若者言葉がまろび出る。らしくないとは加州も解っていたろうが全く指摘されなかった。それだけの大事だった。
     この一文字則宗と加州清光が所属する本丸は、端的に言えば素晴らしく堅物なところである。質実剛健を絵に描いたような場所だ。審神者制度が樹立した最初期に設立し、今なお各任務で優秀な成績を残し続け、表彰式に呼ばれ過ぎて参列側じゃなく運営側に回ってしまうような所である。そんな本丸を運営する審神者は、本丸の有り様と同様の人間であった。則宗からすれば朴訥すぎるきらいさえあった。どこぞの国の軍人で、前線を経験しており、かつては大佐と呼ばれる地位にあったらしい。ここまでは本丸の誰もが知っている経歴だ。しかし則宗はもう少し込み入った事情まで知っていた。元監査官の特権だ。最前線を行く審神者の手に渡ると決まったとき、興味を持ってちょっと調べておいた。男には、前線にいたとき作戦の執行に問題があったと難癖をつけられ、結果部下三名を処刑された経歴があった。作戦外で、戦場外で部下を無駄死にさせた経験は男の精神を大層苛み、一時は、というより審神者の招集があるまでは病院に詰めていたらしい。樹立期における軍人経験のある審神者の登用は必死なもので、特に男は指揮力と前線経験のある経歴も申し分なかった。審神者当人は戦場に赴かず、前線に出るのも人間より幾倍も頑丈な刀剣男士だからと何度も説得されて首を縦に振ったらしい。だから審神者になったばかりの頃、刀装なしで初期刀を出陣させる指令にはたいへん反抗的な姿勢を見せたとか。政府に対する三日三晩に渡る必死の抗議と独自に作成したマニュアルにより、この出陣命令は見直され、今は初手の出陣で初期刀が重傷で帰城するようなことは少なくなったのだとか。そしてそういった改善が何件かあり、今では政府
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