キスしたい! 新年になると同時に勇気を出した甲斐あって、約束の日に告白しあって無事にデュースと付き合えることになった。その日は告白した時の空気を恥ずかしがって払拭しようとするデュースを無視して甘い空気を維持させてベッタリくっついてやった。早くこの空気に慣れて欲しいとか言い訳言うけど、まあ要は浮かれてたって訳。でもそんな時間もあっという間に過ぎて帰路に着いたわけだけど、最後に見たデュースの顔に「もっと一緒にいたい」ってでかでかと書いてあって身悶えた。
そんな名残惜しい別れだったけれど、実はそれだけじゃない。あれだけイチャイチャしたのに、キスだけは恥ずかしいからと絶対にさせてくれなかったことも名残惜しかったりする。名残惜しいというかオレの心残りだけど。
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ホリデーが明けていつもの日常が返って来た。監督生やグリムとバカやりつつデュースと二人きりの時間を探す。でも学校でイチャつこうものならデュースに殴られるかもしれないし誰かに見られるかもしれないし、なによりデュースのかわいい顔を見られたくない。寮の部屋は四人部屋でなかなか二人きりになれない。
「ねぇ、そろそろ腹括れた?」
一週間後の週末、ルームメイト二人が部活の合宿でいなくてやっとデュースと二人きりになる時間ができた。デュースは今やらなくてもいい課題をやろうと机に向かっているけれど、オレと二人きりだということに緊張している。のが空気で分かるんだよなぁ。
「う、えっと…」
へにょりと眉を下げた不安気な顔がこっちを向く。かわいい。けど、なにも危険なことするわけじゃないんだからそんな顔しないでほしい。
「……まあいいや。デュース、こっち来て」
「あ、あぁ」
へし折りそうなくらいの力で握っていたマジカルペンを机に置いて、恐る恐るオレのベッドへ歩み寄ってくれる。突っかかってこない、少し素直なデュースは二人きりの時だけに見れるオレの特権。
「ふっ、かわいい…。おいで」
「……っ、ん…」
両手を広げてやればそっと腕の中に収まって首に腕を回す。いつもはルームメイトがいつ帰ってくるか分からないからハグだけして終わりだからそのつもりなのか、オレの頭を抱え込もうとしている。これで終わるわけないじゃん。
「デュース。座って。……そう、上手」
オレの足を跨がせて座らせて、オレはオレでデュースの背中に腕を回して抱え込む。相変わらず顔は見せてくれようとはせず、肩に頭を乗せてきた。だけど、視界の端に映る耳は真っ赤で今かわいい顔をしてるってことが丸わかりだ。
「座るだけなのに、上手、とか…」
心地のいいテノールが耳をくすぐる。オレが今こんな感じだからか、この距離でもぎりぎり聞こえるくらいの小さな声だった。付き合い始めてからずっとこんな調子で、一向に慣れてくれない。ま、初心なままでもいいけど。
オレもデュースみたいに首筋に顔を埋める。シャワーを浴びたからシャンプーかボディソープの薔薇の香りが鼻を掠める。その奥にデュース本来の匂いを感じ取って思い切り息を吸い込んだ。
「ひっ、なに…」
「ん〜?」
びくっと肩を揺らして首筋まで真っ赤になるのが堪らない。そのままデュースの質問には答えずに、ちゅっちゅっとキスを落とす。戯れに耳にもキスしてみたり。痕もつけたいけど…それはまた今度。
「エース…っ」
「なぁに?」
「やめてくれ…」
「やだ」
やめてくれと言う割にはオレにしがみついているから本気で嫌なわけではないんだろう。本気だったらオレ今頃瀕死だろうし。
耳元で鼻から抜ける甘い声が聞こえてきて暴走しそうになる。あー、もうほんとにかわいい。でも我慢しないと。今日はキスがしたいから。
キスを繰り返しながら背中に回した腕を片方外して、髪を梳いたり耳を塞いだり触りまくっているとデュースの力が抜けてくたりと寄りかかってきた。好きな人とはいえ、同い年の背丈もほとんど変わらない男が力なく寄りかかってくるのはさすがに堪える。強く抱きしめるフリをしてデュースをシーツに沈ませた。
「え、エース…?」
オレを見上げるさっきまで見たくて見たくて仕方がなかった顔は予想通り真っ赤で、綺麗なピーコックグリーンが潤んで想像以上にかわいい。
「デュース…、キスしたい」
「あ、う……」
震えているデュースの頬に手を当てて唇を近づけて───
バチン!!
「ま、待て!」
アッパーをかます勢いで鼻の下あたりをはたかれた。おかげでさっきまでの恋人らしい甘い空気が霧散する。
「いってぇ〜! なにすんだよ!」
「わ、わるい…。まだ、なんか、その、…心の準備が……」
「え〜? オレすっげぇ待ってんだけど?」
「うぅ…」
言いながら横を向いて、さらにで腕で隠した。せっかくのかわいい顔が見られない。
確かにさっきのはデュースの合意得てなかったから拒まれても仕方なかった。いやでもあんな顔見ちゃったらさぁ! したくなっちゃうじゃん! 健全な男子高校生だから!!
あーでもこのままだと今日もお預けかもしれない。それはちょっと、いやだいぶ避けたい。次いつ二人きりになれるか分からないから。
「デュース、こっち向いて」
デュースの覚悟ができるまで待つしかないと思ったけど声をかける。そろそろと腕が外されてまたオレを見てくれた。
「ぁ...」
目が少し見開いて惚ける。ん? 今こいつオレのことかわいいとか思っただろ。情けない顔してるのは分かってるし。
そんなことより。
「ね、デュース。もういいでしょ?」
「いや、まだだめだ」
「はぁ〜〜〜?」
今していい流れだったじゃん!
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素直になることに理由と勇気が必要だった。けどそれは僕だけじゃなくてエースも一緒だったみたいで、たったそれだけのことが嬉しかった。
理由を付けて勇気を出して、告白して手を繋いで。付き合うってことは、それ以上もいずれするんだってことは分かってるんだけど…。
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恥ずかしくて緊張しまくって、でもエースの側にいると落ち着く。
エースにしがみついていたのに気づくとエースに見下ろされていて。びっくりしてキスを拒んでしまった。心の準備ができなかったのもあるけれど、それ以上に甘さを含んだ優しい声とか、欲をにじませた熱い瞳とか、「恋人」としてのエースに慣れていないことの方がその理由としては大きい。
待ってほしいからって顔を思いっきりはたいたのは反省してる。本当に痛そうだった。
拒んだ上に待たせてしまっていることに申し訳なくなって、キスすることを決意して顔を上げた先には、泣きそうに眉を寄せているエースの顔があった。今まで見たことのないその顔がかわいくて、まだもう少し見ていたくて頬を包む。
僕がこんな顔させてるんだと思うと胸がきゅんとなる。もっといろんな顔がみたいと思う。
頬を包んだ手を引き寄せて鼻の頭にキスをした。
「デュース…?」
「…エース」
「…いい?」
「ん……」
さっきまであんなに恥ずかしくてできそうになかったのに、自然と瞼が下りる。愛しい気配と息遣いが今までで一番近づいて───
ここから先は僕たち二人だけの秘密