天空(ソラ)の底 何となしに、空を見上げたお前。
不意に気付いたその一瞬の仕草にオレは目を奪われた。
鮮やかな青の一点を見つめるその横顔を、息をするのも忘れて見入ってしまった。
澄んだ空を仰ぎ、お前が何を思うのか。
オレは『ソレ』を知りたい。
お前の心の中に、オレが入る隙間なんてものがあるかどうか。
お前にとってオレは、どういう存在なのか。
ある日突然、お前はオレに答えを示した。
「俺はどうでもいい奴と話す程ヒマじゃねぇ……」
その一言が、どれだけオレを喜ばせたか。
込み上げてくる想いを抑えるのが、どれだけ辛かったか。
お前は気付かなかっただろう?
「そうか……」
そう返すだけで精一杯だった。
後はもう、お前の顔を見ることが出来ないまま、オレはその場を去った。
お前が訝しむ瞳でオレの後ろ姿を見ていたのは気付いていた。
でもオレは振り返ることをしなかった。
緩み切った顔を見られるわけにはいかなかったから。
気付いたら、空の底を見ていた瞳がオレを捕えていた。
ソレと同じだけ、澄んだ瞳で。
オレがそのことに気付いたのは、お前が声を発したから。
小さな小さな、下手をすると空耳じゃないかって疑うような声。
「……何、見てんだよ」
頬をわずかに紅潮させ、でもいつものスタンツを保つかのように鋭い眼差しで。
何か答えなくてはと口をついて出た言葉に、お前はおろかオレ自身でさえ我が耳を疑った。
「キレイだな、と思って」
刹那。
お前はオレの視線から逃げるように背を向けたけど、微かに見える耳が真っ赤に染まっていると気付いた。
そして無言のまま、足早にオレから遠ざかっていく。
お前の反応に、オレはワンテンポ遅れて顔が熱くなるのを感じた。
自分の言った言葉を頭の中で反芻して、そして思う。
お前がこの場から逃げ出した理由がオレの言動に呆れてじゃなく、恥ずかしさのあまり居たたまれなくなったからだ、と。
そう思ったらいてもたってもいられなくなった。
「待てよ、カルロ!
お前の名前を呼んで、オレは遠ざかる背中めがけて走り出す。
――空の底に背を向けて―――