下等吸血鬼「海」別称「ソラリス」気がつくと見知らぬ場所にいた。
薄暗く酷く湿っている。
不意に気配を感じ目を向けるとそこにはドラルクが立っていた。ドラルクは一瞬目を見開き、憤慨した様に俺を睨みつけた。
「私の記憶を覗いたな?」
「はぁ?」
意味が解らない。そんなもの覗けるか俺は人間だぞ。
そう言おうと思ったが、どうにもおかしくてつい黙り込んでしまった。
記憶より幾らか老けた様に見える。
それにドラルクは俺を睨んでいるが、その怒りは何か違うものに向けられた様に見えた。
「何に怒ってるんだよ…俺、何か悪い事した?」
「ああしたとも。と言っても君には解らないだろうがね。」
ドラルクは深いため息を吐いて、不快を隠さないままに話し始めた。
「君は本物のロナルド君じゃない。」
ーーーーー
その吸血鬼はアメーバ状の単細胞生物だったそうだ。
何処にでもいる下等吸血鬼だ。
違うのは、近付いた他生物の脳波から特定の刺激を受け、姿を変える能力を有する事。
「それはこちらが強い情念、あるいはトラウマを持つ存在に変化する。」
君も私といない間の事、全然解らないでしょ?
そう言われて確かに、と考える。
覚えている記憶も俯瞰で眺めている様な物ばかりだ。
「お陰で世界中大パニック!何せ人も吸血鬼も動物も関係なく、道を歩けば棒ならぬトラウマスイッチ。リアルマインスイーパー。」
「うへぇ」
「お陰でかなりの下等吸血鬼が駆逐されたよ。いやああの時の大捕物は中々見応えがあった。」
「他人事みたいに言ってんな」
言葉の割に退屈そうな態度についツッコミを入れる。
ドラルクはフンと鼻で笑って「アレは笑って捨てるくらいで丁度いい」と吐き捨てた。
「で、そのアメーバの残りカスの俺を、お前はどうするんだ?」
「…」
ドラルクは懐から筒状の容器を取り出した。
どうやらそれはスプレーようだ。中には透明な液体が入っていた。
「中にはナノマシンが入ってる。コレを対象の周りに散布すれば、接触した時点で情報を保つ事ができずただのアメーバ吸血鬼に戻る。」
ナノマシンはアメーバ吸血鬼の中で増殖し拡散、同じ特性を持った吸血鬼に感染していくらしい。
人間って凄いよね。こんな物まで思いついちゃうんだから。
話を聞いて感嘆の声を上げる俺にドラルクはまた、少し不機嫌になった。
「今から君を消す話をしてるんだからさぁ、もう少し怒るなり悲しむなりして欲しんだけど?」
「んな事言われても。そもそも本物の俺ってもう死んでるんだろ?何か今更って言うか。」
「本当そういうとこ〜!」
うるせえ。そもそも俺はお前の記憶で出来てるなら今俺が怒ったりしないのもお前のせいだろ。
「そう言えばジョンは?」
「危ないから家にいるよ。ココ元救済系カルト宗教の拠点なんだよね。残党狩りの協力頼まれちゃって。昔事務所があった所の近くだったからつい引き受けちゃったんだよね〜。」
帰って来なければ各所に連絡する手筈だとか。さもありなん。
「じゃ、楽しいトークタイムは終了。お休みの時間だよ。君達には痛覚とか無いから、苦しくは無いらしいよ。」
「それは何より。」
「本当も〜ドライ。もっと寂しがってよ。」
「んな事したらお前それ使うのやめるだろ絶対やだ。」
「クッソ解釈一致だわ本当ムカつく‼︎‼︎」
「お前の記憶だからな。」
「ア“ーーーー殺す!!!」
シュッと音がして視界が揺らいだ。
案外躊躇いなかったな。ちょっと寂しいかも。
「さよなら私のロナルド君。」
記憶の中のってつけろよ。わざと意味深なニュアンスで伝えるところに少しだけ笑った。