供養の準備「こんちゃーす、鵲嬢はおる?」
「あれ? つづらさん、今日はどうしたんだい?」
つづらがやって来たのは八月に入って数日経った、昼下がりの暑い時間帯であった。風が吹き込んでくるとはいえ玄関先は暑いからと客間に通せば、来客と聞いたらしい平野が冷えた麦茶を盆に乗せて運んでくる。
「お、ありがとう」
礼もそこそこに麦茶に手を付け、半分程飲んだ後。つづらは早速今日やって来た用事について口に出す。
「鵲嬢のとこはお盆は暇か?」
暇だったらば手伝って欲しいという本題に烏鵲の隣で盆を抱えている平野が何を手伝えば良いんだろうかと首を傾げているのを見て、つづらが事情説明からやったなと言葉を続ける。
「俺ん所から二十分位か、歩いて行った所に婆さんの審神者してた本丸のあってな。去年その婆さんが死なって、孫のチビちゃんが跡継いだっさ」
「んーと、なら今年が初盆か」
そうだよねと烏鵲がつづらに言えば、そうそうと頷いて応える。
「そこの婆さんとこは立ち上げ直後で本丸の規模の小さかっさ。男士達からは慕われとったし懐かれとったとばってん、いかんせん人のおらん」
連絡役しとる俺ん所にあっちの初期刀から話の来てな。
『婆さんの盆をやってやりたいが、いかんせんこっちの盆の知識が無くて』って相談されたらさ、加勢してやらんばーってなったとばってん……ちょーっと俺のとこの力仕事出来る面子が出張中で、人手不足っさ。やけん鵲嬢も手伝ってくれん?
そう言って、パチンと顔の前で手を合わせるつづらに烏鵲が了承の旨を伝えれば。ありがとうなと嬉しそうに笑みを浮かべるつづらに、平野がおずおずと『あの』と声を上げる。
「一体何をするのでしょうか?」
お盆に力仕事とは……と不思議そうに首を傾げている平野に、ああと烏鵲が頷いて答える。
「初盆限定の送り火みたいなものさ。ちょっと規模が違うけれど……そうか、こっちだけの風習だから知らない子の方が多いじゃないか」
「そうやな、特に鵲嬢とこは今期就任やから尚更たー」
平野へ返答する烏鵲の言葉尻に被せるように、文化学習にもなるじゃろてと言いながら、出されていた麦茶を全部飲み干してごっそさんと呟くつづらにお粗末さんですと返した後。烏鵲は言う。
「この前熱中症になった子以外で手伝い班を考えておくよ」
「全員はあぶれるから何人かで良かよ、飾り付けはあっちの連中に任せるつもりやけん」
明日また電話するけんと続けた後。立ち上がったつづらは『ないば、他にも用事のあるけん帰るわ。体調は万全にしとってくれんねねー』と言って玄関先へさっさと歩いて行ってしまう。
それを見送った後。平野と烏鵲は一度顔を見合わせてから慌てて立ち上がると、つづらを見送る為に玄関先へと急ぐのであった。