はぴして スノフィガ 新作展示『白衣』「じゃーん、見てみて、似合う?」
「なにしてるんですか……」
部屋に戻ると大人姿のスノウ様が俺の白衣を纏っていた。はあ、いつもの事だがこの人たちはやることに本当に脈絡がない。たち、と言っても今日は一人のようだが。
「ホワイト様はどうしたんです?」
「今日は別行動の日じゃ」
「なるほど」
暇つぶしに来たのだろう。スノウ様もホワイト様も、しばしば俺やオズを暇潰しに使いに来る。弟子だからって何をしてもいいと思っているのだろうか?
……思っていそうだな。
「それ、楽しいですか?」
「すげない態度をとるでない。少しくらい師匠孝行してくれてもよかろう」
「随分してきたと思うんですけどね……」
ひらり、と白衣を翻し、その場でくるりと回ってみせる。大人姿ならば背格好もさほど変わりない。サイズも申し分なく、それは長身の彼に非常によく似合っていた。
「お似合いですよ、とても」
「お世辞? 本音?」
「どっちだと思います?」
「フィガロちゃんのいけず」
ぶう、と頬を膨らませて見せるスノウ様。子ども姿ならいざ知らず。大人姿でそれをされても、その挙動で絆されるのは女性陣くらいだろう。スノウ様の顔でそれをされればそこらの女なら一発だ。なんともズルい造形である。
「今なんか失礼なこと考えてない?」
「今日もスノウ様はハンサムだなって思ってたんですよ」
「ふぅん」
きらりと金色の目が光る。俺の瞳も大概だが、双子の瞳は非常に特徴的であった。じっと見つめられれば、年輪のように広がる輪に吸い込まれそうになる。俺はこの二つ、いつもなら四つの金色が、実はそこそこに苦手だった。
見透かされているようで、どうにも落ち着かない。
「ところでなんで大人姿なんです?」
「え? フィガロちゃんの白衣着るなら大きくならないとじゃろ?」
さも当然、みたいな調子で言われて言葉に詰まる。いや、知らないが。
「どうして俺の白衣を……?」
「一度着てみたかったんじゃよね~」
「そうですか」
早くお帰り願いたい。なんだか嫌な予感しかしない。もうその白衣あげるから自分の部屋に帰ってくれないだろうか。
「ねえ、フィガロちゃん」
「いやです」
「我まだ何も言ってないけど!?」
「いやですよ」
「何が嫌なんじゃ?」
「絶対ろくでもないこと言うつもりでしょう」
「まあまあ」
つかつかとこちらに寄ってくる。俺は、う、と息をのんで数歩後ずさる。そのままじりじりと追い詰められ、逃げ場がなくなっていく。そして、スノウ様がそのスラリと長い腕をこちらに伸ばす。ごくごく軽い力で、トン、と胸元を押されれば、俺はその力が加えられたベクトルの向きに従って、ベッドの上へと倒れこむ。
とさり。
柔らかな布に背中を包まれる。スノウ様がぎしりと音を立ててベッドに乗り上げてくる。その長い脚が折りたたまれ、俺の身体の横へとつくと、同じ方の手首を握りしめ、俺の頭の横へと縫い留められる。
「お医者さんごっこ、しよっか♡」
——今日は厄日だ……。