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    米花町を去ったはずの安室透と灰原哀の残像を、ゆかりがあった人々が目撃するシリーズです。

    カメレオンの残像 2ショッピングモールの人混みの中に、懐かしい髪色を見つけた。
    (……あれ、灰原さん?)
    少し前に突然転校していった大人びた少女と同じ赤茶色のボブヘア。ただ、背丈が大きく違っていた。
    その女性はどう見ても小学生には見えない、大人の女性だ。
    灰原さんな訳あらへんよな、他人の空似やわ、と東尾マリアはこっそり笑った。
    「おい。父の日のプレゼントコーナー、二階みたいだぜ!」
    クラスメイトの坂本たくまがそう声をかけてきた。父の日のプレゼント迷ってるねん、と学校でたくまに打ち明けると『じゃあオレも一緒に選んでやるよ!』と言われ日曜日に揃って買い物に来たのだ。
    エスカレーターで二階に上がると、前方に『父の日おすすめギフト』と掲げられたポスターが見える。その一角で先ほどの茶髪の女性が帽子を手に取って眺めていた。
    その女性には、連れがいた。
    グレーのスーツを着た金髪の背の高い男の人。よく知った顔だった。
    (あれ、安室さんやんな……?)
    隣を歩くたくまは気がついていない。知らせようとしたマリアは二人の様子を見て思いとどまった。
    灰原哀に似た女性がハンチング帽を安室透にそっくりな男性の頭に乗せる。安室がお返しとばかりにストローハットを女性の頭に被せた。大き過ぎたその帽子は女性の顔を半分隠してしまい、安室は楽しそうに笑った。
    もう、と言いたげな表情で頭から帽子を脱ぎ取った女性が安室を肘で小突く。その一連のやり取りがあまりに親密そうで、邪魔をしちゃいけないような気がした。
    「おい、どうしたんだよ?早く行こーぜ!」
    自然と足が止まったマリアにたくまが促した。マリアは慌てて右隣の文具ショップを指さす。
    「あ、ウチ、この店も見たいねん!先に見てもええ?」
    「え、ああ。まあ、構わねえけど…」
    「今日付き合ってくれたお礼に消しゴムか鉛筆プレゼントするわ。好きなの選んでや!」
    「そ、そんなのいいよ、別に」
    ええから、とたくまの背中を文具ショップへと押しながらマリアはちらりと後ろを振り返った。安室らしき人は少年のような屈託のない笑顔を女性へと向けている。以前の『ポアロの安室さん』なら絶対にしないようないたずらっ子みたいなその表情に、マリアの胸の奥はキュッと苦しくなった。
    女性は色鮮やかなアロハシャツを手に取り、微笑みを浮かべている。その笑顔にかつてのクラスメイトの顔が重なった。


    ──なあ、灰原さん。あの時かけてくれた言葉、ウチの一生の宝物やねん。
    これからもウチ、言葉のアクセサリーを大切にするからな。ときたま外したりしても、絶対に捨てへんから。
    だから、灰原さんも、笑っててな?



    何かに引き寄せられるかのように振り向いた志保に降谷が「どうかした?」と尋ねた。
    「……ううん、何でもないわ。誰かに見られてた気がしただけ」
    志保の言葉に降谷は眼光鋭く周囲を見回した。少し呆れたように「組織の残党とかじゃないわよ。嫌な感じの視線じゃなかったから」と志保が言うと、降谷は「じゃあ、ナンパ野郎が見てただけか」と肩をすくめた。
    「で、どうするんだ?博士への父の日プレゼント」
    「うーん。どうしようかしら……。このハンチング帽か甚平で迷ってて……。どっちも似合いそうだし、博士」
    未練がましくふたつの品を見比べる志保の右手から、褐色の手がひょいと帽子を取り上げた。
    「じゃあ、これは僕からのプレゼントにするよ」
    「……何で貴方が父の日に博士にプレゼントを渡すのよ?」
    「……それは……。将来、僕の父親になるかもしれないだろ?」
    しばし沈黙が流れた。
    「……貴方、博士の養子にでもなりたいの?まさか発明の特許目当て?」
    「──そんな訳ないだろ……!?」
    目を剥く降谷にそっぽを向いて、志保はレジへと向かう。その両耳はほんのりと赤くなっていた。
    レジにいた店員に甚平を渡すと、その歳若い女性店員は「父の日のギフト包装をしてよかとですか?」と訊いてきた。志保が頷くよりも先に店員の女性がはっとした表情になる。
    「あ……。失礼いたしました。方言、抜けてなくて……」と恥ずかしそうに下を向く女性に、志保は「気にすることはないわ。可愛いいわよね、方言って」と降谷に同意を求めた。降谷はええ、と頷く。
    「方言は、言葉に付けるアクセサリーみたいなものですからね」
    「──え?」
    「え?……僕、何か変なこと言いました?」
    きょとんとする降谷に、志保はゆっくりと首を横に振った。眼鏡をかけた関西弁の少女を思い出し、自然と目尻が下がる。
    「ううん。ちっとも、変じゃないわ」




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