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    例のセガくじの撮影にのぞむ俳優パロのお話です。
    役名と本名が同じという謎設定ですが、細かいことはお気になさらずお読みください。
    哀ちゃんとコナンくん以外はキャラが全く違います。俳優なのでね。

    「あら。今日は貴女も一緒なのね」

    声をかけてきたのは、私自身を縮めたような容貌の女の子。私は慌てて頭を下げた。
    「お久しぶりです、哀ちゃん、コナンくん。今日はよろしくお願いします」
    深々と頭を下げる私を見て、眼鏡をかけた男の子が可笑しそうに笑う。
    「そんな堅苦しくならないでよ、志保さん。ただのコンビニのくじの宣伝なんだからさ」
    「そうよ。映画の過酷な撮影に比べたらこんなの屁でもないわよ。ポーズ取って笑ってればいいだけじゃない」
    「お、ボウズたち、相変わらず生意気言ってるな」
    銀髪をなびかせて大きな男が歩み寄ってきた。私の緊張はより高まる。
    「ジンさん……!ご無沙汰しております。本日はよろしくお願いします!」
    「よ、志保ちゃん、久しぶり。その服めっちゃ可愛いじゃん、似合ってるよ」
    優しく瞳を細めてジンさんが褒めてくれた。風貌はThe悪役だが、中身はとても気さくで良い人だ。
    「あーら、ジンったら、またシェリーちゃんばっかり可愛がっちゃって。マティーニを作った仲としては妬けちゃうわ」
    などと言いながらジンさんの右肩に金髪美女が手を置くと、
    「俺のことも忘れないでくれよ……?愛しい愛しいコイビトさん?」
    と囁きながら、帽子を被った黒髪の男性がジンさんの左肩に腕をのせた。ベルモットさんと赤井さんだ。相変わらず麗しい方々だわ、と見惚れてしまう。
    「忘れてねえよ、ライ」
    ジンさんが赤井さんの顎をクイッと持ち上げると、スタジオにいた女性スタッフたちからキャーッと黄色い悲鳴が上がった。
    「役を離れると愉快なオジさんオバさんたちよね……」
    ポツリと呟いた哀ちゃんに、ベルモットさんが「聞き捨てならないわね、お嬢ちゃん。オバさんじゃなくてお姉さんでしょ?」などと絡んでいる。もちろん本気で怒っているのではなく、ただのじゃれ合いだ。
    和気あいあいとした現場の雰囲気に、私の緊張も少しだけほぐれていく。
    「賑やかなのは結構だが、ここは小学校じゃないんですよ。気を引き締めて下さい」
    よく通る声がスタジオ中に響いた。スタッフさんたちの間に緊張が走る。
    「降谷さん入られましたー!」
    「おはようございます!!」
    人気実力ナンバーワン、ストイックで自分にも他人にも厳しいと評判の俳優・降谷零の登場に私も息を飲んだ。
    「あの……!降谷さん、よろしくお願いします!」
    「ああ、宮野さん。よろしく」
    素っ気なく言うと降谷さんはカメラマンたちがいる方へ去っていった。ベルモットさんが「まったく、バーボンったら愛想無い子ねえ」と肩をすくめていた。


    「いいよコナンくん、バッチリだよー!哀ちゃんもいい笑顔だねー!」
    撮影が始まった。スツールに座りポーズを取る皆さんは流石の貫禄だ。
    「ジンさん、もう少し口角上げてみてもらえますー?赤井さんはちょっと流し目で……ああ、いいですねいいですね!!色気ダダ漏れっすよー!」
    要望に瞬時に対応してくれる皆さんに、カメラマンのテンションも最高潮だ。が、私と視線が合うとカメラマンの表情が曇った。
    「えーと。志保ちゃん、ちょっと緊張してるのかな……?ほら、リラックスしてー、もうちょっと笑顔で!」
    ひく、と口の端を上げようとしたが上手く上がらない。ああ、カメラマンの顔がますます曇っていく。
    焦っていると「無理に笑わなくてもいいんじゃない?無表情の方が『宮野志保』らしいわよ」という声が上がった。哀ちゃんだ。
    「なるほどね。不遜に笑う『シェリー』との差別化が図れるわね」
    「さすがお嬢ちゃん。良いこと言うな」
    ベルモットさんとジンさんのフォローもあり、全体撮影はOKが出た。私はホッと胸を撫で下ろす。
    「じゃあ、個別撮影に移りますねー!赤井さん、ベルモットさん、ジンさんからスタートします!残りの方々は休憩入ってくださーい!」
    スタッフの指示に私はヨロヨロとスタジオを出て休憩所に向かった。

    はあーー、と大きく息を吐き椅子に座ったところで大切なことに気づいた。哀ちゃんにお礼、言わなくちゃ。
    立ち上がったところで、休憩所に来た人物とぶつかりそうになる。
    「おっと」
    「あ……!降谷さん、すみません!」
    降谷さんは「大丈夫」と言うと自動販売機で飲み物を買った。
    「はい、どうぞ」
    差し出されたのはロイヤルミルクティーのペットボトルだ。ありがとうございます、と頭を下げると降谷さんは椅子に座った。手で向かいに座るように促され、少しだけ迷ったが腰を下ろした。哀ちゃんには後でお礼を言おう。
    「だいぶ緊張してたみたいだな」
    コーヒーを飲みながら降谷さんに指摘され、私は「すみませんでした……」とうなだれる。
    「別に責めてないさ。哀ちゃんが言ったように、変に笑わない方がらしくて良い」
    安心して良いのかは分からないが、怒ってはないようだ。ペットボトルに口をつけてゆっくりとミルクティーを飲んだ。
    「……?なんですか?」
    降谷さんにやけにマジマジと見られている。居心地悪くなって尋ねると、「いや。その服、どうなってるのかなと思って」と予想外の言葉が返ってきた。
    「え?服、ですか?」
    「そう。上のシャツの部分とスカート部分って一体化してるの?」
    「えっと、これは……。って、ちょ、何するのよ!?」
    胸元で揺れるストライプのタイを解こうとする降谷さんの手を思わず振り払ってしまった。憮然とした顔になる降谷さんをキッと睨む。
    「こんなとこで何よ!誰かに見られたら、」
    「誰もいないさ。みんな撮影中だ」
    平然と言ってのけた降谷さんに背後から抱きすくめられた。右手は私のタイに、左手は私の左手の手袋の上に重ねられる。何とか引き離そうと右手で思い切り降谷さんの肩を押したが、ビクリともしない。
    調子に乗った降谷さんは、私の手袋と甲の隙間から長い指をじわりと差し入れてくる。
    「こ、この手袋だって、あなたの差し金だってスタイリストさんに聞いたわよ!?」
    『この手袋ね、わざわざ降谷さんが持ってきたのよ。彼女の衣装に合いそうだから使って下さいって』
    本当に完璧主義者よね、降谷さんて。とスタイリストさんは感心していたが。
    「うん。この手袋は匂わせだよ」
    「に、匂わせって……」
    「君のビジュアルが公開されたら、気がつく人は気がつくよ。去年僕がつけた手袋と一緒だって」
    「そんなの匂わせてどうするのよ!?私たちが付き合ってることは極秘だって約束でしょ!?」
    私の悲鳴に重なるように「へえ。あなたたち、そういう関係だったのね」と面白がるような声が上がった。
    恐る恐る左斜め下に視線をやると、ニヤニヤ笑う哀ちゃんとコナンくんの姿があった。

    「…………っ、あ、あの、これはね、」
    しどろもどろの言い訳をしようとした私を無視し、哀ちゃんは降谷さんを見上げる。
    「酷いじゃない、降谷さん。私が大きくなったらお嫁さんにしてくれるって約束したのに。他の似ている女に乗りかえるなんて」
    ええっ!?と私とコナンくんは驚いたが、降谷さんは私を抱きしめたまま「……そんな約束、してないよね?」と冷静に返す。チッと哀ちゃんが舌打ちをした。
    「ノリ悪いわね。ね、この特大ネタ、週刊誌に売られたくなかったら、フサエブランドの新作を……」
    「いいよ。売っても」
    あっさりと言われ、脅迫しようとしていた哀ちゃんが目を丸くする。私とコナンくんも。
    「交際がバレたら堂々とデートできるしね。なんならこれを機に結婚してもいい」
    堂々と言い放つ降谷さんのみぞおちに私の右肘がヒットした。不意打ちの攻撃に、さすがの降谷さんも腕の力をゆるめる。その隙に降谷さんから離れた私は「何言ってるんですか!?結婚だなんて!付き合ってまだ1年しか経ってないじゃない!」と抗議の声を上げた。
    「誰にも気づかれずに1年も付き合ってたのね。やるじゃない」
    「大人って怖いねー……」
    哀ちゃんとコナンくんに言われ、墓穴を掘ったことに気づいた私は頭を抱えた。
    「すみませーん!!降谷さん、志保さん、そろそろ撮影始めますー!!」
    スタジオからスタッフさんの声が上がる。こんな状況で撮影なんて、と泣きたくなった。
    「ま、頑張ってよ、志保さん」とコナンくんに励まされ、「プロなんだから仕事は仕事でやり切りなさいよ」と哀ちゃんにはハッパをかけられてしまう。
    「さ。行こうか、宮野さん」
    すっかり顔をよそ行きにチェンジした降谷さんがにこっと微笑んだ。

    ああ。芸能界って、怖い。


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    recommended works

    黒護にゃちょこ

    MAIKINGかきかけの降志小説から抜粋解毒薬が無事必要在るべきところに渡った後は、私は恐らく然るべき処分を受けるだろう。そうなる前に、母からのテープを最初から最後まで聞かなければと思い、部屋で一人、ベッドに横たわりながらカセットのスイッチを付けた。

    古ぼけた音が途切れ途切れに響き渡る。このテープは、そろそろ限界なのだ。眼を瞑りながら母の音にひたすら集中すると、この世とあの世が繋がる感覚に陥る。途切れる度に現実に押し戻されるので、まるで「こちら側にくるにはまだ早いわよ」と言われているようだ。音の海に流されていると、ふと「れいくん」という単語に意識が覚醒させられた。

    「れいくん」

    その名を自分でも呼んでみる。誰だろう。巻き戻して再度テープの擦る音を聴くと、どうやら母に懐く近所の子どもらしかった。

    「将来は貴女や、日本を護る正義のヒーローになるって言ってたから…もしかしたら、もしかするとかもしれないわね」

    もし、叶っていたら、その「れいくん」とやらは、警察官にでもなっているのかしら。…いえ、きっと、そんな昔の約束なんて…白鳥警部じゃあるまいし。それに、今更だわ。

    「もう決着は着いちゃったわよ…れいくん」

    あまりにも 676

    dc_eureka

    MOURNING灰原さんの日オンリー「口づけ」のワンライお題で書かせて頂いたけれど、
    コレジャナイ感がすごすぎて没にして、加筆修正して、持て余していたものを今更、供養致します。
    降谷さんのふの字も出てきませんが、降谷さん目線の降志です。
    n は、ここでは実験参加者数のことです。  Ω\ζ°)チーン
    n=2のささやかな実験計画 この歳になると、いや、何より職業上、他人のキスシーンを見ても、そうそう動揺することはない。実際、張り込み中に、濃厚な口付けを交わす対象者であったり、路地裏でキスどころでない行為をやらかしている対象者であったりを、幾らでも見てきた。最初こそどぎまぎしたりもしたけれど、最近では最早、日常茶飯事。どうということもない。――はず、だった。

     偶然目にしたカップルのキス。首に腕を回して、彼らは随分と夢中になっていた。思わずドキリとしてしまい、そんな自分に、驚いた。そうか、付き合い始めの彼女が隣にいる状況では、さすがの自分でも、気恥ずかしさを感じるのか。新しい自分を発見して、一人、心のうちで感心する。

     隣を歩くのは、赤毛頭の天才科学者。職場での彼女の評判は、クール、博識、毒舌、ヤバい…。畏敬を込めた、そんな言葉。案外かわいかったり、動物好きで優しかったりする一面もあるのだが、それは、自分が〔灰原哀〕だった頃を知っているからこそ思えること。確かに、科学者・宮野志保は、はっきり言って、時々怖い。
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