柑橘組のお話暖かい太陽の光を反射する海、その色を移したように広がる青空、髪をなびかせる風は、小さい頃から覚えている潮の匂い。後ろを振り向けば木々に実った果物と村の人の活気のある声。幼馴染のみかんちゃんと一緒に手を繋いで、この木々の間を駆けた事を思い出す。
当たり前の光景があんなにも容易く、脆いものだと思い知ったのは、今でも忘れないあの襲撃の時だ。
いつもと何も変わりない日。何の予告もなく、武装した兵士達が村を蹂躙していった。恐怖から逃げ出す人、戦う為に武器を持った人、村人を守ろうとした村長も、近所の友達も、みんな殺された。
私とみかんちゃんは農園の茂みの中で息を潜めていた。なんでこんな事になったんだろう。ただ普通に、みんなと楽しく過ごしてきただけなのに。どうしてこんな事に…。今にも泣き出してしまいそうなみかんちゃんの手を握って、じっ、と音を立てないように息を殺した。
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