Mr.AUTUMNside S
マーク・スペクターは秋が嫌いだ。
彼から分かたれたスティーヴン・グラントが彼と過ごした時間の中で気づいたことだ。恐らく春も好んでいないが、秋ほどではない。彼にそのことを聞いたことはないが、間違いないと確信するくらいには彼の隣で過ごしていたし、彼を隣から見てきた。
マークは夏が好きだ。ジリジリと全身を焼く太陽も、茹だってしまいそうな熱気も、眠れない熱帯夜も好んでいた。
マークは冬が好きだ。凍える寒波も、見るだけで霜焼けになりそうな降り積もった雪も、一向に温まらない部屋やベッドも好んでいた。
ただ生きているだけで罰を受けているような、そんな季節こそマークは好んでいた。好んでいる、と思うと同時に、生きることに肯定的だ、ともスティーヴンは思っている。冬が長いイギリスは彼にとって過ごしやすい国なのかもしれない。
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