アンドロメダのB「うわあ!」
「フレミング博士の顔だ!」
成人サイズまで成長した再生装置の生命体は、まぶしそうにまぶたをうっすらと開く。ジョンと同じ深海色の瞳がぼんやりとチームメンバーを見上げていた。
この実験を嫌悪していたジョンは、気味悪がって怒り出すと誰もが息を呑んだ。
しかし、吸い寄せられるようにジョンは手を伸ばし、ぱちばちと赤子のような瞬きをする自分そっくりの男の頬にそっと触れる。
ジョンの指先が触れた途端、びくりと震えたのち、なつくように頬を寄せてくる。
「おれだ……」
「そうだね、ジョンだね」
デニースがそう言い、クリスティンも頷いている。
「……あなた、この前この装置を無理やり開けたから、その時に皮膚片か髪が混入して、きっと外見の構成にあなたの遺伝情報を活用することにしたんだわ」
マデリーンがコンピュータの指令で造り上げた生命体がジョンの姿をしている原因について仮説を立てる。
「なるほど予測よりずいぶん早いのはそのせいか」
「容姿の設計はフレミング博士のDNAの流用ってことね」
羊水代わりの溶液に濡れそぼった生命体は、ゆっくりとおぼつかない動きで指を動かす。
初めて筋肉を使うのでうまくは動かせないらしく、ぶるぶると震えながら腕をなんとか持ち上げると頬をゆるく撫でているジョンの指をそろそろと掴む。
「博士が気に入ったみたい」
「……ああ、みたいだな……」
ジョンは濡れた指がゆるゆるとすがりつくのを振り払いもせず、もう片方の手を伸ばして生命体の濡れた髪を撫でている。
「ジョンも彼が気に入った」
デニースがそう言うと、ジョンは戸惑ったようにしながらも小さく頷いた。
「さあ、まずは簡単な医療チェックとそしてシャワーね。ジョン、そのまま彼を抱き起こしてあげてくれる? 初めて筋肉を使うから座れるようになるには時間がかかるわ。誰かストレッチャー持ってきて!」
ジョンは自分と全く同じ姿の生命体の世話をすることにした。
なんせ現在のジョンの体の遺伝情報からそのまま再現されている体は、顔や手足どころか性器の形、体毛の生え方までまるきり同じで、言葉どころか排泄すらままならない彼をスタッフに明け渡すのは羞恥を感じたからだ。
与えられている居住スペースにベッドをもうひとつ持ち込んでもらい、眠ることすら知らない生命体に日常のすべてをレクチャーする。
さすがに発生の訓練はプロが来ることになったが、ジョンの姿が見えなくなると不安そうにきょろきょろと深海色の瞳を彷徨わせるので、その間も部屋の隅で待機した。
最初に自発的に発生した言葉は、ドクターだった。
拙い発音で、はかせ、とジョンを呼び、ジョンに抱きついて、犬か猫のように鼻先をこすりつけてくる。
夜はジョンの隣でジョンの手をつかんで口元にだきよせて眠る。
まったく自分と同じ姿とサイズの男に幼子のようになつかれることは、不思議と不快ではなかった。
とつぜん兄弟ができたような気持ちでもある。ひとりっ子のジョンには新鮮だった。
ただふるまいは幼児でも知能は大人よりはるかに高い。
あっというまに言葉を覚えて、ジョンが教えたプログラミングもあっという間に習得した。
「まいったな……おれはおれがナルシストだなんて知らなかった」