子役リックがインタビューされる小話「クリスマスは誰と過ごすの? ひょっとしてこの前話題になった歌姫の彼女かな?」
インタビュアーの質問に、少年は首を笑ってふる。さらさらしたブロンドがゆるく揺れるのは計算されつくした芸術品のようだ。
「まさか! 彼女とはたまたま仕事の休憩時間に雑談してただけ! クリスマスは家族とゆっくり過ごすよ」
リックはきれいな歯並びを見せて、 ゴシップを追及されてもにこにこと完璧な笑顔を見せた。
「そうかご家族とね! あれ? でもリック去年お母さんを事故で亡くされてたよね? 確か母子家庭じゃなかっ……」
インタビュアーは口に出してしまってからしまった、と思った。リック・ダルトンが笑顔をひっこめ、表情を曇らせたからだ。眉をきゅっとよせて、みるみるあおに涙が滲む。
「ああ、ごめんよリック、すまなかった。 今のところは カットするから」
「うん……ありがとう……ママのことは……聞かないでくれると嬉しいな……まだ……」
涙をぬぐったリックが力なくサンキューを言うので、さすがのインタビュアーも申し訳なくなる。
このルックスにあの演技力なのに、いい子だなと思う。
赤ん坊のころからハリウッドにいるのに、あまりすれたところがないのが不思議だ。
「そうか、亡くなる少し前にお母さんが再婚されてたんだったね。スタントマンの人だっけ? 新しいお父さんと過ごすのかい?」
「うんそうだよ」
リックがまたにこにこと微笑んでそう答える。
花がほころぶようなその笑顔が、なんというか、お愛想にしてはあまりに自然で、奇妙な色っぽさまで受け取ってしまいインタビュアーは首をかしげた。
「ファック!! あのくそ野郎! お前もあのビッチと同じように山に埋めてやる!!」
リックはガンっと、キャデラックのフロントを小さな足で蹴る。
そのまま長い両足を投げ出し、煙草をくわえて火をつけた。
運転席のクリフはにやにやと笑っている。
「あんたの演技はほんとに世界一だな」
「どうも!『パパ』!」
リックはクリフをひと睨みすると、ぱかぱかと煙を吸い込んだ。
トレーラーの中ならともかく、さすがにインタビュー中は煙草は吸えない。
クソみたいな質問に受け答えしなければいけないのに、余計にイライラするのだ。
「はやく帰るぞ!」
「帰ってファックする?」
「ファックする!!」
子供らしい物言いでベッドのお誘いを受けたパパ兼付き人兼恋人兼運転手は、了解、と笑ってアクセルを踏み込んだ。