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    はるつき

    @htso917

    左右完全固定派字書き。
    ロカリュ(SN2)とちーとど(忘バ)多め。時々シンセイ。
    可愛い攻めとかっこいい受けが大好き。
    リアクションありがとうございます!

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    はるつき

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    同棲ちーとどのとある1週間のご飯の話。

    ブルスカで曜日連動でアップしていたものになります。

    ボナペティート⚠未来大捏造

    とある元二遊間現恋人の同棲生活1週間のご飯の話。

    千早が在籍する実業団での活躍が認められ来春から見事プロ入りをすることが決定したのはつい一月前のことだった。私生活ではプロ野球選手の恋人と現在同棲中。
    公私ともに幸福の只中にいる事実に自然にニヤつく頬を隠すこともせず今日も千早は愛車のRAV4を走らせ家路につく。
    「ただいまー」
    「おー、おかえり。良いニュースと悪いニュースどっちもあんだけど、どっちから聞きたい?」
    リビングに入るやいなや同棲中の恋人からそう告げられた。いつかテレビで見た映画のワンシーンのようだった。
    藤堂の様子を一見してそこまで不幸を背負っている様子に見えないが千早はごくりと唾を飲んで腹を決める。
    「良い方から」
    「俺、明日から一週間くらい専業主夫やる。」
    専業主夫という四文字に小躍りしそうになるのをなんとかこらえる。一週間位という中途半端な期間もなんだか気になり悪い方のニュースを促す。嫌な予感がした。
    「……悪い方は?」
    「練習してたら左足首を捻挫しました。全治10日。」
    「〜〜〜〜〜柔軟きちんとしないから……。治ったらみっちり柔軟しましょうね」
    「ッス……」
    プロ野球選手が捻挫とはいえ怪我で休養という事実に心配や不安が先立つ。一方でいつでも恋人が家にいて自分の帰りを待ってくれている。まるで新婚生活のような一週間が始まることに少しばかり期待してしまう千早がいたのであった。


    月曜日 主夫はじめました。オムライスとミネストローネ。

    家にじっとしているのが性に合わない藤堂は療養1日目にして心が折れそうだった。
    左足首の痛みはまだあり動き回ることも出来ない。車の運転に支障はないので千早のお抱え運転手を名乗り出て送り届けた後は大層に暇だった。
    ひょこひょこと足をかばいながらフローリングを掃除してみたり上肢のストレッチをして時間を潰した。
    夕食の下ごしらえでもするかと冷蔵庫を一瞥する。中途半端に余ったパスタに根菜、賞味期限が近い卵、そういえば冷凍していた白米もそろそろ傷みそうだと頭の中で献立を組み立てていく。
    「オムライスとミネストローネだな」
    そう呟いて藤堂はキッチンに立って包丁を握り有り物の野菜をスープ用に刻んでいく。
    黙々と作業をしているとふいにシンクに置いていたスマホが鳴って藤堂は手を止めた。
    『定時には上がります』
    『お迎えお願いしますにゃ☆』と書かれた猫のスタンプと共にメッセージが送られてきて思わず頬が緩む。
    藤堂に似ているからとプレゼントされたチベットスナギツネが『了解です』と敬礼しているスタンプを送る。夕飯もほぼ出来ているし夕方は混雑するから早めに向かっても良いだろうと藤堂は千早の愛車のキーを手に適当なパーカーを羽織って家を出た。

    「お疲れ」
    「お迎えありがとうございます」
    定時を少し過ぎてから会社を出てきた千早は愛車の助手席に乗り込んだ。
    「今日の夕飯なんですか」
    「ミネストローネとオムライス」
    「俺卵半熟のふわふわのやつが好きです。ソースはデミで。」
    「うるせ〜〜〜」
    「ちぇ」
    軽口を叩きながらも藤堂の中には秘策があった。いつも何を出しても結局食べるしおかわりまでするが今日は写真も取るだろうなというくらいのとっておきのものだった。
    帰宅後風呂に消えた千早を見送って夕食の支度に取り掛かる。
    千早の言っていたような半熟のオムレツは出来ない。いつものように堅焼きできっちり包んだオールドスタイル。
    いつもと違うのはケチャップでデカデカと「ちはや♡」と名前を書いたことだった。名字にしたのは書きやすかったからで他意はない。妹にも良く花丸やチューリップ、ハートや名前など書いていたなとほの甘い記憶が蘇る。さて、恋人はどんな顔をするだろうかと藤堂は千早の反応を楽しみに風呂から上がってくるのを待った。

    「こっっっっ!!」
    「にわとりの断末魔のマネ?」
    オムライスを見るなり奇声をあげて千早は固まった。なにせ多忙な両親と食卓をともにすることが少なかった千早である。オムライスに自分の名前がハート付きで書かれる日が来るとは想像もしていなかった。ドラマや漫画の中の出来事が現実に起こり得るワケがないと信じて疑っていなかったのにそれは突然現実になる。
    藤堂の顔とオムライスを交互に見る黒目がちな瞳は零れ落ちそうほど大きく見開かれ煌めいている。あまりに幸福そうな顔が見れただけで藤堂の左足首の痛みは消失するような気持ちだった。
    藤堂の予想した通り千早はポケットから震える手でスマホをとりだし連写を始める。カシャカシャとシャッター音が響いた。16連写はしただろうか。動きのない絵をそんなに連写してどうするのだろうと疑問に思ったがあえてそれには突っ込まなかった。
    「千早、あったかいうちに食ってほしいんだけど?」
    「いただきます」
    食べるよう促すと千早は我に返ってスプーンを持って端からもったいなさそうに削り口に入れた。甘めに味付けされたチキンライスにはゴロゴロと鶏肉と玉ねぎ、人参が入っていて食いでがあった。名前が消えるのがもったいなくて少しずつ削っていたのに次第に夢中で頬張る様を満足気に見つめてから藤堂もスプーンを手に取った。
    「おかわりあるぞ」
    「次はだいすき♡って書いて欲しいです」
    「ワハ、気に入っとる」


    火曜日 車擦りましたごめんなさいデミグラスハンバーグ。

    ガリガリ…という嫌な音が半日経つのに耳から離れない。
    それは千早を送った帰りのこと。狭い道ですれ違おうとして車体の幅を見誤ったのが運の尽き。千早の愛車のRAV4のミラーが思い切り壁に擦られて傷物になった。慌ててディーラーに連絡したが不運にも臨時休業日だったようで連絡がつかない。
    こっそり直してなかったことにも出来ない事実にせめて怒られるのを最小限にしようとショックで朦朧としたままスーパーに立ち寄った。無心で必要な材料と数日分のストック食材を放り込んで会計を済ませる。よろよろとなんとか帰宅した藤堂は気持ちを切り替えるようにキッチンに立った。
    スマホでレシピを見ながら無心でセロリや人参を刻み油を引いた圧力鍋に放り込む。弱火でしんなりするまで根気よく炒めてひき肉を加えて更に炒める。
    ここまでで30分以上かかっているが今の藤堂にはそれくらい時間がかかっても問題無かった。なにせ時間だけはある。
    全体に火が通ったらトマト缶を入れて煮る。浮いてきたアクを根気よく掬い15分ほど煮たら赤ワインと水、ローリエを入れて加圧。あとは放置。
    「うっし…」
    放置時間でハンバーグに着手する。こちらはもう慣れたものだ。すぐ焼けるようタネを形成したら冷蔵庫にしまってソース作りに戻る。
    初めての缶詰不使用のデミグラスソースづくりは思った以上に難航する。まだ工程の半分ほどしか進んでいない事実に目眩がしそうだった。こんな大変な工程の料理が日常的に出る一般家庭など千早家以外聞いたことがない。
    愛情をこれでもかと注がれて大切に大切に育てられた恋人はその自覚がなさすぎる。今度一緒に千早の実家に帰ったら滾々といかにこれらの料理が手間暇かかっているか解説してやろうと心に決めながら続きにとりかかったのだった。
    どう説明したら良いかと悩ませているとスマホが振動した。
    『今日は19時すぎになるので電車で帰ります。駅から走りたいので迎えもいいです。』
    と、メッセージが来たのは不幸中の幸いだった。少しだけ執行猶予がつく。
    気を付けてな、とメッセージを送る。送ってから真に気をつけるのは自分のほうだと自嘲した。どのタイミングで告白して謝罪しようか懸命に考えながら贖罪のためのハンバーグのタネに氷を埋めてフライパンに滑り込ませた。

    「ただいまー。うわめっちゃいい匂いする」
    「おかえり。風呂入る?」
    「冷めるの嫌なので先にたべます」
    「ん、了解」
    千早の顔をみたら喋ろうと思っていたのにいざ本人を前にすると勇気がでなかった。罪悪感に苛まれキリリと痛む胃を無視していつも通りを装って夕食をテーブルに並べた。
    手ずから作ったデミグラスソースのハンバーグにガーリックバターを塗って焼いたバゲット、コーン缶を使って作られたコーンスープとコールスローサラダ。
    何でもない日のはずなのにやけに手の込んだ好物が並ぶ食卓に千早は首を傾げた。
    「藤堂くん今日って何かの記念日でしたっけ?」
    「…べつに?」
    『強いて言うならRAV4傷物記念日です』とは言えず藤堂は濁すが千早はその様子をみて何か有ったなとすぐに察した。静かに着席して穏やかに言葉をかける。
    「怒らないんで何があったか教えてくれませんか?」
    「…………RAV4のミラー…壁に擦りました…すまん……」
    「え?それだけ?ミラー開閉はするんですよね?」
    「そこはちゃんと動く…擦り傷はすごい」
    思った以上に大したことがない出来事に千早は呆気にとられた。そんな些細なことで怒ると思われていたと考えると少し腹が立ったが怒らないと言った手前別ベクトルで湧いた怒りをぐっと抑える。
    「それだけでこんな豪華なご飯出るならいつでも擦っていいですよ」
    「怒んねーの?」
    「怒って欲しいんならお望み通りそうしますけど?」
    「怒って欲しくはないです」
    漫才のような会話の応酬に笑いながら千早はハンバーグを口に入れる。懐かしいよく知った味に驚いた。
    「これ、うちで出るやつと同じ味します。」
    「千早の母さんから聞いたレシピだからな。愛されてんなほんと」
    一つ一つは簡単だが工程が多い手料理は愛がなければ出来ない。その工程を全く知らない千早は有り難みがいまいち理解しきれず疑問符を浮かべた。
    「藤堂くんにってことですか?」
    「俺にも。両親にも。」
    そのまま健やかでいてくれと藤堂は願わずにいられなかった。


    水曜日 疲れた貴方へ贈るカレータワー

    週の真ん中水曜日。
    千早は疲れていた。その上仕事で千早らしからぬミスをして柄にもなく落ち込んでいた。大事にはならないもので上司からも口頭注意だけで済んだのだがそれでハイ終わりとは千早の中では済ませることが出来ない。あそこでああしていればと柄にもない後悔の弁を内心で何度も何度も繰り返す。
    誰にも何も言われてないのに責められている気がして仕事を辞めますと言って逃げ出したくなるようなついていない日、それが今日だった。
    迎えの車中でも明らかに落ち込みしょぼくれているので風呂に先入ってこいと藤堂に背中を押されて浴室へと足を踏み入れた。
    シャワーを浴びて乳白色のお湯が張られた浴槽に身体を沈めた。じわじわと温まっていく身体と反比例して心だけは凍りついたまま溶けない。重い溜息だけが溢れて止まらない。
    『これ久しぶりにだめなやつかも知れない』
    藤堂があの手この手で機嫌を直して欲しいと手をこまねいているのもわかっている。わかっているがそれで元気になれるのであればとっくに元気になっている。そんな自分に更に落ち込んだ。目から熱い雫が溢れた気がしたがお湯なのか涙なのかはわからなかった。
    夕飯食べれるだろうか、このまま寝てしまおうかといまだしょぼしょぼとしたままメガネも洗面台に置きっぱなしでリビングへ戻るとカレーの匂いがした。
    すぐに身体は空腹を主張する。気持ちとはあべこべで至極元気な身体を恨みながら着席した。
    「にらめっこしよ。千早が笑うまでやめねぇから」
    「どんなルールですかそれ。」
    謎の宣言をして鍋と炊飯器とその他なにかを色々と持って藤堂は千早の前に立った。深めのカレー皿に白米とルーをよそって千早の前に置いた。
    おもむろにスプーンを持つ手を制止されてなにかと思っていたらルーの中にカツが三切れ乗った。少し豪華になったカレーは嬉しいがそれだけでは千早の表情は冴えない。
    そんな千早の様子を見ながらそのままコロッケ、ウィンナー、エビフライをこれでもかと乗せていく。
    「あの、藤堂くん…?」
    「ん?なに?まだ笑うなよ」
    楽しそうな藤堂と反対に千早は何が起きているのか聞くが答えは返ってこない。その代わりにカレー皿の上にはどんどん蒸したオクラや焼かれたミニトマト、アボカド、とにかくカレーに合いそうな食材が追加されていく。
    仕上げとばかりに白米の上に焼き立ての目玉焼きが乗っかった。もうここまで来るとこれはカレーと呼んで良いのかすら怪しくなってきた。
    「あ、あれ忘れた。」
    そういってキッチンに意気揚々と鼻歌交じりに消えた藤堂の背中を千早は訝しげに見送る。これ以上盛るスペースはないほどに盛られているカレーは九龍城を彷彿とするほどにカオスだった。
    「じゃーん」
    そう言いながら藤堂はトーチバーナーとピザ用チーズを持って戻ってきた。躊躇無く藤堂の大きな手でひとつかみのチーズがカレーの上に乗ってすぐにバーナーであぶられる。
    直火で溶けていくチーズのダイナミックかつ衝撃的な映像と共に今日のもやもやも溶けた。元気づけるためだけにここまでする恋人に全ての事がなんだかどうでも良くなり笑えてくる。
    「あははっもういいです、ンフッフフフッ元気でました、あは、もー、ほんとやめて。こんな食いきれない」
    見た目の暴力にケラケラと笑いながら両手をあげて降参する。
    「え〜もう元気でたんか?ちょっと早いって。こっからデザートにクリームソーダとプリンだす予定あんのに」
    「アハハハほんと、ひぃ…君って…」
    結局半分こしてデザートまできっちり食べて満腹のまま眠りに落ちたのだった。


    木曜日 二日目のカレーでカレーうどん、おいシャツは脱げ!

    千早のメンタルもRAV4のミラーも治った木曜日。
    今日は絶対カレーうどんだと予想していた千早のそれは見事的中した。予想外だったのはうどんを手打ちしたと藤堂がドヤ顔で言い放ったことくらいだった。
    「えぇ〜足で踏んだんですよね…」
    「そういうと思って新しい靴下に履き替えたし袋も三重にしたわ」
    「まぁそれくらいは当然ですよね。ていうか捻挫はいいんですか」
    「もう痛くねぇから平気だろ」
    期間限定の専業主夫とはいえ毎日やりすぎなのではないかと思いながら千早は鍋の中で茹でられているうどんを見つめた。不揃いながらも白くツヤツヤとした麺は手作りならではだ。水に一度さらしてから出汁で伸ばされたカレーに茹で上がったうどんを入れたら完成。
    いそいそとキッチンからダイニングへ運ぶ。
    「…千早……食う前にシャツ着替えてきてほしいんですけど」
    「なんでですか」
    「なんでだと思う?」
    「白いから?」
    「そーですね」
    白Tシャツにハーフパンツの出で立ちでこれを食すにはいささか無謀がすぎるのではないかと藤堂は暗に言った。
    「大丈夫ですよ」
    「何を根拠に……てめぇこの間そう言ってナポリタンのケチャップ跳ね飛ばしただろうが」
    あれを落とすの結構大変だったんだからなと恨みがましい目で見つめるが千早は動じない。絶対に大丈夫ですと言い切る。
    「なにその自信…」
    そのフラグは見事1分後に綺麗に回収されることとなるのであった。

    「だから!!脱げって!!言った!!!」
    「あはは、いけるとおもったんですけどねぇ」


    金曜日 プレモル。餃子。デザートは雪見だいふくで。 

    シミ抜きされた白シャツがベランダではたはたと風に揺れるのを眺めながら藤堂は日課となったストレッチと素振りに励んでいた。
    足首の痛みはもうほぼ無い。走り込みもそろそろ再開したいところではあるがまだやめておけと医師に言われては従うしか無く今日も身体も時間も持て余していた。こんなときに限って姉妹から何の連絡もない。
    子供がいる専業主婦はそれこそ毎日が戦争だろう。その点男二人暮らしの専業主夫は意外と時間を持て余す事を藤堂は初めて知る。挙句今日は千早が車を使いたいからと乗って行ってしまった。わざわざ電車を使ってまで行きたい場所も思いつかない。
    いつものように掃除をして適当に昼食を取って、合間にトレーニングをして夕飯を考えるだけの毎日。
    『めっちゃ暇だな……』
    あくびを噛み殺しながらソファに怠惰に横になり各種SNSを見る。無料動画の合間に挟まるビールの広告にごくりと喉がなった。
    どうせ今日は運転する予定もない。夕飯を作りながら先に飲むかと思い立ち冷蔵庫のドアを開けた。
    「無ぇじゃん」
    そういえば昨日飲んだのが最後だったと思い出し肩を落とす。
    「調理に少し時間がかかってビールに合う夕飯…」
    餃子にするかぁ、と独り言を呟いて袖を捲った。
    キャベツ、ニラ、白菜、生姜を刻んでひき肉と混ぜ合わせる。適当に醤油、酒、砂糖、塩コショウ、隠し味に味噌を入れて練った。あとは冷蔵庫にいれて休ませる。その間に洗濯物を取り込んだ。
    無駄のない動き、流石俺、と自画自賛しながら休ませていたタネを取り出し包んでいく。量は適当。何個作るかなど考えもせず無心でバットに並べていく。全体の半分量を包み終えてから味変を思いつきチーズやエビをいれた。
    帰って来る時間に合わせて焼こうと逆算した矢先にドアが開いてタイミングよく千早が帰ってきた。
    「おかえり、今日餃子。」
    「ただいま、わ、やった。プレモル買ってきてよかった」
    「え?まじで。さすが瞬平、気が利く〜」
    願っていたことが現実となり手放しで褒め称える。さすがよくわかっている。伊達に長年恋人をやっていない。つらつらと賛辞を並べ立てた。機嫌を良くした千早もしたり顔で頷く。
    「そうでしょうそうでしょう。雪見だいふくの新味も買ってきました」
    「ナイス〜まじ好き抱いて♡」
    「言われなくても明日嫌ってほど抱いてあげますよ♡」
    バカップルの典型的な会話のラリーなのに千早の目は少しも笑っていなかった。絶対に抱くという強い意思が宿る本気の目で藤堂を見つめる。
    「冗談だよな?」
    「は?本気ですけど?みっちり柔軟するって俺言いましたよね?」
    「はひ……」
    その日の餃子もプレモルも、なんだか味がしない藤堂なのであった。


    土曜日 深夜の禁断鍋ラーメン。

    『明日嫌ってほど抱いてあげますよ♡』

    という宣告から30時間後。嘘偽り無くしっかり嫌と言うほど抱かれた藤堂は息も絶え絶えだった。
    股関節柔らかくなりましたね♡と言いながら正常位で太ももをぐいぐい膝で押して開脚させてきた鬼畜、もとい恋人は今はすっかり夢の中にいる。
    このまま自分も眠ろうかとスマホで時間を確認すると時刻は深夜2時を過ぎたところだった。
    夕食はさんざん抱かれると覚悟して軽く済ませた為空腹を覚えるには十分な時刻だ。時間を知ってしまうときゅーっと空腹を知らせるかのように腹の虫が鳴いた。これはただ内臓が動いているだけ、空腹ではないと思い込みたかったが何度も鳴られて堪らず藤堂は身体を起こす。
    パーカーを羽織ってパンツ一枚でキッチンに侵入する。慣れた手つきでインスタント麺とミルクパンを取り出し水を並々張ってコンロに掛けた。
    「昔も深夜にこっそりラーメン食ったっけ」
    その時は若かったからダメージはなかったが今はどうだろうか。流石に浮腫むだろうか…と自分の身体の老いをほんの少し感じながら沸騰したお湯にインスタント麺を沈ませた。
    「卵いれっかな」
    明日の自分が浮腫も腰のだるさもなんとかしてくれるだろうと振り返ると恋人が起きてキッチンに入ってきたのが見えた。しょぼしょぼと眠そうな目を擦りながら上裸のまま藤堂の姿を見て「俺のぶんも…」と眠そうな声で要求した。
    「うぉ、起きてきた」
    あの時もこんなタイミングだったと記憶を重ねる。
    冷蔵庫から卵を取り出して器用に片手で割って投入して、好みの加減まで火を入れたら完成。
    「腹減りました」
    「一個を半分こな」
    「鍋ごとだしといて半分こですか」
    「いいじゃん洗い物だしたくねーんだもん」
    仲良く並んで座って鍋に入ったままのラーメンを交代で無心で啜る。一袋を半分なのですぐに底が見えてきて、千早は感慨深げに呟いた。
    「高校のときもおんなじ事しましたね俺ら」
    「俺もそれ思い出してた」
    かわんねぇなーと笑う藤堂に千早も頷く。
    「あ、けど前と違うこともありますよ」
    「何かある?」
    「俺体力ついたんでまだヤれます。」
    「BBBBB」
    進化キャンセルボタンのコマンドを必死にいうが千早はにっこり笑って首を振った。

    「お気の毒ですがもう進化してしまいました。」


    日曜日 chiha's kitchen (藤堂君が9割準備して)用意したものがこちらになります。

    深夜にラーメンを食べた後も外が白むまで大層に盛り上がったせいで腰がだるくて起きられない藤堂の代わりに日曜日の昼過ぎに台所に立ったのは千早だった。
    藤堂のシャツを拝借して下は下着姿のまま台所に立つ。
    下準備は済んでいると言われた目当てのものをそっと取り出す。
    バットの中にはフレンチトースト用に調味された卵液に漬け込まれたバゲットが4切れ並んでいた。昨日から仕込んでいたそれは十分に卵液を吸って膨らんでいる。
    あとはこれを焼くだけ。
    さすがの千早でもすぐに出来るものだった。
    バターを多めに引いて温めたフライパンにそっとバゲットを並べる。ちわちわと音を立てて火が通っていくそれを眺めながら昨日の行為のあれそれを脳内でプレイバックした。
    半泣きですがる藤堂の顔にかすれた甘やかな吐息をまざまざと思いだし自分の顔に熱が集中する。
    今はまだ同棲だがいずれ自分がプロ野球選手で生活が立てられるようになったら結婚しよう。プロポーズは何処でしようやはりクルーズ船か、ヘリか…などと妄想にふけながら焼いたフレンチトーストは少し焦げたのはいうまでもない。
    9割藤堂が仕込んで準備したフレンチトーストと市販のアサイーボウル、牛乳とコーヒー半々くらいで入れたカフェオレを持って藤堂の待つ寝室に戻った。
    「起きてます?」
    「ん…おきてる」
    「ふは、声カスカス。」
    完全に掠れた声での返答に思わず笑みをこぼすとじっとりとした目で睨まれた。
    「誰のせいだと…」
    「俺ですね。」
    「ベッドで食うの?潔癖何処言った?」
    「インスタとか海外の映画でよくあるじゃないですか」
    よくあるだろうかと考えながらゆっくりと身体を起こしてトレーを膝の上に載せた。ふわりと漂う甘い香りに空腹が呼び起こされる。
    「「いただきます」」
    二人揃って挨拶をして口に入れる。限界まで卵液を吸ったフレンチトーストは甘く、柔らかい。
    「ところで藤堂くん、俺等なにか忘れてませんか」
    「俺もそう思ってんだよなー」
    何だっただろう、なにか大事なことを忘れている気がする。
    カフェオレを飲みながらそれが何だったかを思い出そうとするが靄がかかったかのように思い出せない。
    「まぁたいしたことじゃ―」
    ピンポーン。
    突然インターホンが鳴った。
    それと同時に二人は忘れていたことを瞬間で思い出す。今日は、そうだ。確か14時に…。
    「「あーーーーー!!!!」」
    今日は清峰と要、山田がうちに来ると言っていた。「久しぶりにみんなでたこパしようよ〜」と要がしつこかったので今日の14時でと都合を合わせ渋々了承したのが先週のことだったのを二人はたった今思い出した。
    もう3人は玄関にいる。
    とにかくでなければと千早は焦りズボンだけをとりあえず履いた。藤堂もそれに倣うが自分のシャツが千早に着られている事に気付いたときには全てが遅かった。
    藤堂の焦っている上に少々残念な頭では代わりの自分のシャツを取り出し着用するという発想に至れない。とにかく早くなんとかして勘付かれないように何食わぬ顔ででなければとその場に脱ぎ捨てられていた千早のTシャツに袖を通し後を追った。

    「さすがに遅すぎじゃない?」
    「なんかあったのかな?」
    「忘れてるんじゃないのか」
    「まっさかぁ〜瞬ちゃんだよ?」
    インターホンを鳴らして5分。ドタバタと音はするが開かない玄関の前に三人は立ち尽くす。もう一度インターホンを鳴らそうと手を伸ばしたところでドアが勢いよく開いた。
    「おっ…おまたせっ……しました!」
    「も〜〜ふたりとも遅す、ぎっ!!!?」
    ぜぇぜぇと息を切らした二人をみて三人は一瞬にして固まった。なんなら要は智将にチェンジするほどの衝撃だった。
    無理もない。千早の明らかに藤堂のものだろうなと想像がつく位にはオーバーサイズのシャツから覗く首元や胸元からはキスマークがこれでもかと見えている。斜め後ろの藤堂は鍛えられた体のラインが尋常じゃなくでている小さめのシャツ着用で、そこから見えた腕にはバイトマークとキスマークがしっかり存在を主張していた。『友との約束を忘れるほど昨夜は大変お楽しみでした』と二人揃って全身で主張されては目のやり場にも非常に困る。
    「あーーーーー、買い忘れた物思い出しちゃった。ちょっと戻って買ってくるね!2時間くらいかかるかも!」
    「そっ…そういうことなら……仕方ないですね…?」
    「おっ…おう気をつけてな」
    見え透いた嘘をつきながらそそくさと山田の手でドアが閉められた。ドアがあいてから閉まるまでおおよそ一分。

    2時間後、皆がまともに互いの顔が見れたかどうかは別の話。
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    💛💚💒👏👏🇱🇴🇻🇪
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