鳥祈ひなこ②◎
最近、雨ばかりだ。
窓硝子に打ち付ける雨粒が、当たっては不規則に下へと流れていく。
退屈しのぎに目線で追ってみては、これがまた難しくて。
直ぐ置いていかれるか先走るかの2択。
雨ばかり。
いいや、別に嫌いではないんだ。
むしろ、少し好きな方ではある。
変わってるかな。
「…………」
つー。
窓の内を指でつつ、となぞってみる。
指先がひんやりとして冷たい。
雨の日は寒いからと薄ら暖房の効いた部屋の中で、ちょっぴりの好奇心。
あっ。
触れた部分がちょっぴり曇ってきた。
つー、つつー。
何度なぞってもすぐ曇ってしまう。
これが自然の力か。
なんて、くだらない事を考えてはシャボン玉みたいにはじけ飛ばす。
弾けた時の衝撃で自分の瞳に変な考えが染みないように、すぐ忘れてしまおう。
その方が、楽だから。
そうして生きていくうちに、どうでもいい事は直ぐ頭から抜け落ちてしまうようになった。
シャボン液の膜みたいに、触れればすぐ消えて。
けれど、また大量に生み出しては大量に消えて。
無駄かしら。
いいか、どうでも。
「……あめ、やまないな」
何の気なしに呟く。
だって、自分の部屋には今誰もいないんだし、呟くくらいは許されるはず。
許すも何も、人がいたらわたしが恥ずかしいだけで罰なんてものは無いけれどね。
ぱちぱち、ぱたぱた。
とたん。
ぴちゃん。
窓硝子にひたすらぶつかっては消えてつぶれて。
悲しくないのかな。
そのうち、意志を持ってわたしのところにぶつかってきて、きゃーって窓硝子を割ってしまうかも。
それは、ちょっぴりこわい。
ぱちぱち、ぱちぱち。
そんな音を立てて弾いていく雨粒の音が、何だか炭酸飲料みたい。
甘くて、シュワシュワ。
ソーダ水みたいにちょっぴり苦いのかな。でもわたしは甘いのが好きだから甘ければいいな。
下らない妄想は、子供の醍醐味。
夢くらい見たって許されるお年頃。
身も蓋もない、どうでもいい話。
頭の中を掻き乱してスプーンですくってしまえるくらい。
これが普通かな。
『ひなこー。夜ご飯出来たからいらっしゃーい』
「あっ、はーい!すぐいくー!」
人の声がすれば雨音なんて掻き消えてしまうもので。
もう聞こえないソーダ水が、また明日も続く。
炭酸が抜けて、甘い水になった日は、またこんど。
ぱちぱち、しゅわしゅわ。