鳥祈ひなこ①×
「ねぇ、もしも教室に殺人犯が侵入してきたら?」
「わたしは生きると思う!それで、皆を助けるんだ、きっと!」
「もー、そんなこと起きる訳ないじゃん!」
「起きたとしても多分ひなこは死んじゃうね、だって鈍感だし!」
「それか人質に取られちゃうかもね?私死にたくないし助けてあげな〜い!」
「えぇ〜!ひどいなぁー!」
「あっはは、冗談だって!」
「もー、そんなこと言うなら課題見せてあげないよー?」
「うわわ、ごめんってひなこ様〜!見せて見せて!」
「しょうがないなぁ〜」
「ごめんごめん、あ、やば雨降ってきた!」
「嘘ぉ…本当じゃん!帰ろ、ひなこ!」
「うん!」
ぴちゃん、ぽちゃん。あはは。
ぴた、ぽた。がらがら。
ざあ、ざあ。ぱたぱた。
硝子細工みたいに真ん丸な滴が、地面に、空に、空気に打ち付けられてひしゃげて、曲がる。
ぴちゃ、ぴちゃ。ばたん。
それはやがて集まって、やがて空に帰る。
そんな事を、TVの絵本が言っていた。
どんな歌詞だったっけな、あの歌。
ざあ、ざあ。
ばさ。
ぱら、ぱら。
友達__名前はなんだったっけ。
兎にも角にも、その子達と別れて、おそらく家までの道のりを歩く。
耳のそばで囁く硝子細工の声がだんだん強くなる。
この季節は、きらいじゃない。
「…………あっ」
視界の傍で、きらきらと光る。
それが地面とかならきっと雨粒なんだろうけど、それは空。
空中で、きらきら光ってる。
それと、黄色。
「……捕まっちゃったんだ」
蜘蛛の巣。それと、黄色い蝶。
どうやら雨粒が伝ってきらきら反射していたらしい。
巣の中央で、半分諦めかけたように羽を揺らす蝶がいっぴき。
かわいそうかな。
手を伸ばそうとした。
__ばっちいし、やめようかな。
『あら、ひなこ。どうしたのそんな所で』
背後からの声。
振り向いてみると、お母さんがいた。
至って普通の傘と、至って普通の買い物袋。
『丁度いいし一緒帰りましょ。ほら、買い物バック持って、重いんだから』
「はーい。あ、チョコある!」
『こーら、勝手に中見ないの。ご飯の後ね?』
「えへへ、はーい!」
学校指定の黄色い傘を片手に、お母さんの後ろを歩く。
傘の柄が、とても軽い何かにぶつかった気がした。