再会の夜と朝日「ジャン…?」
寝室のドアを抜け細心の注意を払い物音を立てないようにしていたジャンだったが、沈み込んだマットレスの振動で眠っている優を起こしてしまったようだ。
「わりぃ起こしたか」
うっすらと薄目を開けた優がそれにぼんやりした声で答える。
「オカエリ」
日本語だ。優が大学に進学したこの春に二人は結婚し、共同生活を始めた。
長期任務の多いジャンは家を空けがちだが、彼が帰るのはフランスの家から日本の新居になった。欧州圏の任務が多いジャンには移動時間がより掛かる事になるが、彼の中にはフランスに寄ることはあっても「帰る」という選択肢はもはや無いらしい。
帰宅したときの挨拶「オカエリ」と「タダイマ」は一緒に住み始めてからジャンが覚えた日本語になる。
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