左様ならば「地元を離れてみる気は無いのか」
と、藪から棒に父親がそんなことを言い出したので松田は目を瞬かせた。
「はあ?何のことだよ」
「大学のことだよ」
夏も終わり、そろそろ受験が現実味を帯びて目の前に立ちはだかる季節になっていた。さすがの松田もそれを無視はできず、本腰を入れて受験勉強に取り組んでいる真っ最中だ。理系の教科はまあいい。問題は文系だ。古典と現文と英語のテストの点数に担任が目頭を押さえていたりなどするので、それをどうにかしなければならない。ありおりはべりいまそかり。
苦手な教科の勉強は集中力が続かない。
今日も今日とて問題集を3ページ解いたあたりで気力が失せてしまった。そうなっては仕方がないと、気分転換という名目で夜食の菓子パンと飲み物を調達しに台所に足を踏み入れたところで父親に捕まったのだ。
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