竹鉢初夜「い、いくぞ…………」
緊張の瞬間。己の手が情けなくも震えているのがわかる。荒くなる息を必死で抑え、深呼吸をして、三郎の浴衣に手をかける。すると、「待って」という声とともに三郎の手がそっと俺のそれに重なり、俺はどきりと胸が高鳴るのを感じた。
「さ、三郎?」
「……自分で脱ぐ」
──自分で脱ぐ?
三郎から放たれた言葉に耳を疑う。あの、三郎が、俺の前で、自分で?
そんなことをぐるぐる巡らせているうちに、ぱさり、という布が擦れる音が聞こえ我に返る。はっとして顔を上げると、顔の色よりほんの少しだけ白くしなやかな三郎の身体が目に入った。
俺はごくりと生唾を飲む。すると、三郎は少しだけ笑って、「顔、怖すぎるぞ」と俺の額を小突いた。
「……どうぞ?」
三郎の長い指が俺の指に絡みつき、そのまま顕になった胸元へと引き寄せられる。ひたりと触れた三郎の身体は、心なしか熱かった。
「っ……お前、なあ……」
「折角ここまでお膳立てしてやったんだ。今更いらないなんて言ってくれるなよ、八左ヱ門」
悪戯っぽく笑うその顔には、少しだけ緊張の色が混じっていた。それがたまらなく愛おしくて、俺は優しく三郎を抱きしめた。甘い香りがする。三郎の匂いだ。
「……大事にする」
「大事にしてもらわないと困る」
相変わらずああ言えばこう言う可愛げのない口だが、それが緊張あっての軽口だと分かれば、なんてことは無かった。額を合わせ、目を合わせ、唇を合わせる。その柔らかい感触を忘れないように、俺はゆっくりと目を閉じた。
(ああ、幸せだ)
そう思ったのは、きっとあいつも同じだろう。