平日の昼間。
いつも通り流と辻は楽屋で台本を見ながら自分達の出番を待っていた。
辻が台本を読むのに疲れた頃、何かを思い出したかのように流へ話しかけた。
「高校生の時、流さんはなんで僕に声掛けたの?」
「そりゃ辻が一人で過ごしてたから気になって…華の高校生が三年間一人で過ごすなんて辛くない?」
中学時代、自分の知性や言動を酷くいじられた以来人との付き合いを拒んでいた。
だが、そんな辻に正面から絡んできたのは
阿賀月 流、彼だった。
その頃から感じていた疑問をぶつけるも、真っ当な返答に言葉を詰まらせる。その様子を見た流は「どしたの?」と言いたげに首を傾げては辻の返事を待っている。
「や、そ…そうかな?だとしても今も付き合いがあるのが不思議だなと思って。
ほら流さんって友達多いから僕以外にも遊べる人いるだろうに」
「…うーん」
流はその場で腕を組み唸るように声を出し、考え始めた。まとまったのか顔を上げ辻に目線を合わせると、たどたどしく呟き始めた。
「波長…が合う、から?」
「波長。」
「うん」
考えた先の答え。
なんとなく、とか他の人とは都合が合わないから、の答えを予想していた辻は意外な答えに思わず困惑の表情を浮かべる。
その顔を見て「何その顔!」と笑いながらも流は話を続けた。
「辻ってさ…いや俺も人の事言えないけど、物静かな奴かと思いきや結構はっちゃけるタイプだし。そんでゲームの趣味も合えば就きたい仕事も同じだったから」
「それは流さんが僕の俳優業の話に興味を持ったからでしょ」
「そうとも言う!それに、話してる内に辻の事をたくさん知りたくなったのもあるよ」
数年の付き合いとは言え、初耳だらけの情報に辻は目を丸くさせては硬直状態に陥っていた。
「あー…え?僕の事なんか知ってどうするのさ」
自分個人を見つめてくれる人は流しかいない。とは感じていたが、いざ口頭で言われるとそれまで感じた事も無かった照れくささが急にフツフツと沸き始め、もどかしくなる。
「そんなの、辻が大好きだからに決まってるじゃん」
今じゃ聞き慣れた"大好き"の言葉。
「辻が好きだから辻の事が知りたい。それじゃダメなの?」
慣れたはずなのに異常に恥ずかしく感じる。
「ダメじゃない…し、むしろ嬉しいけど、さぁ…」
顔が熱くなるのを感じる。恥ずかしさから上手く言葉が出せなくなっていた。
そんな辻を見ては満足そうに流は笑みを浮かべ、
「じゃあこれからも辻の事たくさん教えてね!俺少しお手洗い行ってくるね」
と言うと上機嫌に鼻歌交じりで楽屋から出ていった。
ドラマでもこんな緊張や顔を真っ赤にする事は無かった。まだ引かぬ顔の赤みを鏡で見つめていると、ドアを二度ノックし、マネージャーから「そろそろお願いします」と声をかけられる。
まだ流は戻ってきていないけど、後から多分来るだろうと思い楽屋から廊下へと足を動かした。
撮影が始まるまでには赤に染まった顔が戻っているといいけど、と強く辻は願いながら向かった。